第1話

文字数 1,603文字

ミスリードするつもりはありませんので、最初に言います。ゴールをつくる力とは書いてそのままの意味で、ゴールを生みだす能力とも言えます。

この能力に必要なのは想像力と空間把握能力です。
そして、ゴールをつくる力は大多数の大人よりも子どものほうが優れています。


街なかを浮かべたとき、サッカーゴールの置かれた場所はとても限られています。大きな競技場以外なら、学校あるいは河川敷などのグラウンドに置かれているくらいです。子どもたちが集う公園や広場に、ゴールはありません。

ゴールがなくても、ボール一つあれば子どもはサッカーをします。
「サッカーしない」「みんながやるから仕方なく」「チームのお荷物扱いされてイヤ!」そういう子どももいると思いますが、公園や広場を年中通して見たなら、サッカーをする子どもたちの姿を目にしないことはありません。

「ゴールがない!」
織田裕二が主演のドラマ『お金がない!」のようになった子どもたち。でも子どもたちはこんな困難(こんなこんなん、と音にすると『ドラえもん』の秘密道具みたいな響きになります)に屈しません。

「ゴールがなければ、つくればいいじゃない!」
チームに分かれてのサッカー、PK合戦など。楽しい遊びをするため、子どもたちは自らの手で遊び場をつくってしまいます。

あの木とこの木の間がゴール。外灯のポールと時計台の間がゴール。金網3枚分がゴール。鉄棒の下がゴール。背負っていたランドセルを2つ置いてつくるゴール。自転車と自転車。何も見つからないときは、靴をジリジリ引き摺り地面に線を描きます。

「こっからここが、ゴールね」
子どもたちの想像力、それぞれのフィールド(公園や広場など)に合わせた空間把握能力が発揮されてゴールが生みだされていきます。


自分たちのつくったゴールで、子どもたちはサッカーを楽しみます。ドリブル、パス、シュート。も一度シュート!

サッカーはゴールの決まった点数で競うものです。ゴールを決めるには、ゴールポストとゴールポストの内側にボールを入れる必要があります。

木々、ポール、金網、鉄棒、ランドセル、自転車などなど。自作したゴールは、何故かゴールポストにばかりボールが当たってしまいます。その度にランドセルがふっ飛び、自転車は倒れます。

「オイラの自転車が倒れるように、わざと狙ってシュートしてない?」

そう友だちに言いたくなるほど、ボールはゴールポストに見立てた物に当たります。木々やポールなど、狙ってシュートしてもなかなか当たらないのに、木のほうが動いてボールに当たりに来てるんじゃないかってくらい、ゴールポストにボールが当たってしまいます。
(全然別ですが、松木安太郎さんがサッカー解説で「もう〇センチ、ゴールが右にずれてたら、入ってたんですけどね~」と仰っていたときは、発想をそのまま言葉にできる柔軟さに驚きました)


つくったゴールの低さによって、子どもたちの間で問題が発生することもあります。
「やる前に(ゴールは)自転車の高さまでって、言ったよね!」
「ゴロ(地面を転がる)じゃないと、ゴールじゃありません!」
ゴールしたかどうか。
少し前までゴールなんて場所は無かったのに、ゴールをつくってサッカーをして、そしたら言い争いが生まれてしまいました。

今シーズンからJ1リーグでも導入されたビデオアシスタントレフェリー(VAR)。ゴールなどの判定をより正確に行うために導入されたVARシステムは、プロだけでなく、公園や広場でサッカーを楽しむ子どもたちにも必要な場面がある気がします。

ですが、自分たちがつくりあげたゴール、バー(ゴールの上辺)もネットも無いゴールが見えている子どもたちなら、ビデオ録画して判定するまでもなく、みんなの想像力をぶつけ合うことでゴールしたかどうか答えをだせる――そうも思います。

見えないゴールを生みだす能力には、そこにそれがあると信じる心が欠かせません。
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