ハッピーエンドになったつもりだった

文字数 929文字

 「疲れていない」と言えば嘘になる。国王の命を受け、私は冒険をする勇者と魔法使いを見守る役目であった。冒険はとても長く、この国の地に足をつけたのは数年ぶりだ。

「では、私はここから教会へと戻ります」
「お城、一緒に来ないの?」
 魔法使いの彼女は寂しそうに私を見つめる。ショートヘアだった髪はロングになり、結婚をして娘を持ったらこんな気持ちなのかと思わせてくれた。

「私は良いのです。早く教会へ戻り、おつとめをしなくてはいけませんので」
「それじゃあ、お元気で」
 勇者は会った当初は声変わりをした直後で、突っ走ることが多くて不安だったが、今ではとてもかっこいい声で話をする。身長も伸びて行く街々で服を買った気がする。そして、魔法使いのことを好きなんだと思う。


 私も最初はお城へ行こうと思っていた。だが、王様から「街中のお城まで行ってしまうと村の教会へ戻るのが遅くなってしまう」とご配慮を頂き、入国後は勇者たちと別行動をすることとなった。

「この辺り……?」
 村のはずれにあった靴屋のご夫婦の家がない。娘夫婦と同居するか迷われていたし、家を取り壊したのかもしれない。やっぱり私が居ない間に色々変わっているみたい。

「これは……変わりすぎでは……?」
 目の前には廃れた村があった。家の屋根は飛び、窓は割れ、人の住んでいる気配は全くを持ってなかった。
「シスターさん、やっと追いついた!!」
「勇者、それから……」
「王室兵です、名は後ほど」

 私が勇者たちと共に国外へ旅をしている間に、この村は山賊に荒らされ、村民は1部を除き皆殺された。1部は山賊の仲間になった。……これが王室兵からの説明だった。説明を受けながら連れてこられたのは、元々あった墓地だった。

「今は国王の命を受け、王室兵が定期的に墓地の管理をしております。土地を広げ、墓地の数を増やして今回の事件で亡くなった村民は全てここで眠っております」
「私は明日からどう生きていけば……」

 お墓を見ながら途方に暮れる。靴屋のご夫婦のお名前も、教会に文字を習いに来ていた子どもたちの名前も、みんな居た。みんな、ここで私を待っていた。

 ……私だけ、助かってしまってごめんなさい。
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