限りなく千年に近い思考

文字数 1,685文字

 二番目の地球で何が起きているのかは、正直、何の興味もない。

 実験の過程で、地球を複製させて、そこに大きな差が出るのかなど、教授たちの考えるところで、あたしには関係がない。

 卒論を書き終える前に、そもそも、実験室の連中が地球の劣化コピーを作ろうと言い出し、それに教授が乗っかった。そもそも、複製自体にどれだけの時間がかかり、どれだけの費用と人でが必要となるのかを分かっていない。

 あたしは無視をしていた。

 二週間後に、国立物理学応用研究所から資金提供の許可が下り、地球は複製されることになった。

 そもそも、だ。

 ガクワや、ハロルドン、エト、西和星、省津星、二千日球など、宇宙には、実験に適した惑星など幾らでもある。どの星も地球にいる生き物たちの千倍から二千倍の量であるし、文明もそれだけ進んでいる。

 わざわざ手のひらサイズほどしかない地球という星を選ぶ理由も分からない。確か、地球を星学の専攻にしいている同級がいたことは覚えているけれど、興味もない。あたしのことではないのだから。

 実験は簡単に行われ、調べる内容も簡素だった。

 文化、文明にピントを当てて、生物学的な変化自体には余り、意味を見出さない。環境の変化自体は除く、というものだった。これは、前々から星の複製実験というのは幾度ともされている中で、環境についての実験が多かったためだ。

 人文学的な内容での複製実験、かつ、ここまで明確に文明が進歩していないと観察できるうえに、生物の絶対量が少ない場合、どのようになるのかは見ものだった。

 これは、娯楽の延長だった。

 二か月だった。

 本当に短すぎる二か月だった。

 面白すぎたのだ。

 複製された地球は、確かに最初は同じような道をたどっていたが、片方では文化としてレベルの低いものがもてはやされるようになり、その逆にもう一つの方では文化的にレベルの高いものが称賛されるようになったのだ。

 複製することによって何かしらの影響がなかった、とは言い難い。しかしそれはかなり些末である。つまり、そんな些末な誤差が生まれるだけでも、このようにして文化や文明、というものは大きく影響を受けるのである。

 これは画期的である。

 さて。

 かなり面白がって、色々話したのは確かだったのだが。

 ここからである。

 この複製された地球をどう処分するのか。

 国立物理学応用研究所からは、処分自体は任されており、それも資金の中に含まれていた。その資金は他の研究へと回し、使途不明金として既に国立物理学応用研究所に内訳として示している。相手側もそのことは当然理解した上で了承しているが、ここからまた資金の催促や、使い道の変更などは決して褒められた行為ではない。

「それ、スノードームにすれば。」

 OBの一言で、あたしは地球の複製をまた幾つも作り出し、それらをすべて透明度が高く、固い材質のプラスチックで覆い、中に水と雪に見えるよう白い粉を流し込んだ。下にモーターを付けているので、スイッチを入れると延々とその地球の表面を白い粉が舞い散っている。

 かなり売れたし、正直、大学から表彰された。

 内容は地球というマイナーな星と、宇宙に影響を及ぼさない程度の文明、そしてそのサイズの小ささに目を付けて商品化にこぎつけたことだった。

 大学の本格的なバックアップの元、話題のベンチャー企業の社長との対談や、海外で共に起業を目指す学生との意見交換会、最後には時の総理にプレゼンまで行えるにまでなった。

 卒業式の日、あたしは全学生の前でスピーチを行うことになり、研究室でその準備に追われていた。

 何気なく見つめた窓の外では、叫び声が響き、高い空から大量の水と白い粉が降り注ぎ、あたしの住む星全体を透明な容器が包み込み始めているのが見える。

「上には上がいるということだねぇ。」

 教授が煙草をふかしながら外の光景を見つめ、笑っていた。

「禁煙ですよ、この研究室。」

 サイレンが静かに聞こえ始める。
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