戦慄!! 「今の規準で過去の行為を裁くな!!」

文字数 1,308文字

「以上が起訴内容ですが……被告人は罪を認めますか?」
 私は、内閣の一員であった時の行為を犯罪と断ぜられ、起訴される事になった。
「その前に、裁判長。過去の行為を、その時の法や規準ではなく、現在の法や規準で裁く事は法治国家として有り得ざる事です」
「では、被告人は、本裁判において、現在の法律ではなく、当時の法律で裁かれる方が、被告人自身にとって有利になると判断されるのですね?」
「はい、その通りです」
 ふと、弁護人席を見ると……おい、何故か、私の弁護士達が「あ、マズい」とでも言いたげな顔をしている。……どう云う事だ?
「では、本裁判においては『水掛け論になる事については被告人に有利になるようにする』との方針で、今の法律ではなく、当時の法律を規準に判断を下す事とします。では、改めて聞きます、被告人は罪を認めますか?」
「無罪を主張します。起訴事実は確かですが……後ほど弁護人が述べる理由により、当該行為は当時の法律では合法であったと確信しております」
 その時、検事が手を挙げた。
「被告人に質問します。被告人は弁護人に起訴状に記載された行為が当時は合法であった根拠を説明されたのですか?」
「ええ、もちろん。弁護に必要でしたので……」
 何故か、原告席の連中が、やたらと慌て出した。
 メモ書きのような何かを受け取った下っ端が、どこかに走り去っていく。
「判りました。残念ですが、被告人の行為は、現在の法律では違法ですが、当時の法律では合法であった事を認め、起訴を取下げます」

「おい、何で、起訴取下げなのに、そんな真っ青な顔してんだよ?」
 私は裁判所の玄関口に向かいながら、弁護士達にそう言った。
「そ……それは……」
 外に出ると、山程の報道陣。私は彼等に手を振り……。
「元大臣。起訴取下げ、おめでとうございます。つきましては、国家機密漏洩罪容疑で、お話を伺いたいのですが……」
 その時、やたらとガタイの良い男が、逮捕状と警察手帳を見せながら、私にそう言った。
「はぁ? どう云う事だ?」
「ですので、先程の裁判の起訴事由となった行為が国家機密に関わるものである以上、当時は合法であった根拠を誰かに漏らせば国家機密漏洩に該当する事は、よく御存知だと思いますが……。例え、貴方が当時の大臣であっても、相手が貴方が被告となる裁判の弁護士であっても」
「……そ……そんな馬鹿な……」
「残念ながら、貴方が大臣だった頃に制定された法律の改正は、間に合っていませんので……裁判中に法改正が有ると結構ですが、現在の法律では、貴方は国家機密漏洩罪の容疑者となります。あ……何なら、この法律が制定された時の国会答弁を見てみますか?」
 そう言って刑事はスマホを私に見せた。
『大臣……。この国家機密法の改正では、違反者は裁判の際に、自分の弁護士に弁護に必要な情報を提供出来なくなる可能性が有りますが、問題は無いでしょうか?』
『いや、そんなレア・ケースまでイチイチ気にしなくても……』
 フザけた答弁をする大臣も居たものだ……。ただ、最大の問題は……そのフザけた答弁をしたクソ大臣が、当時の私自身だった事だ。
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