プロット

文字数 1,895文字

起)
 中学二年生の男子、生田葵(いくたあおい)風邪(かぜ)で休んだ授業のノートを写させてもらっていると、そのノートの持ち主であるクラスの男友達、伊東藍花(いとうあいか)突然(とつぜん)聞いてきた。
怪盗(かいとうアイ)iって知ってる?」
 知らないと答える生田に、伊東は少し前にこの近所で有名だった学生怪盗だと説明する。しかしどうでもいいと聞く耳を持たない生田。伊東はつまらないと言い悪態をつく。
 その翌日、話していた怪盗iが予告状を教室に出す。


承)
 教室に貼られた怪盗iからの予告状の存在は、教室をとびこえて学年中に知れ渡っていた。しかし予告状には具体的に何を盗るとは書かれていないこと、おまけに予告状はノートの切れ端だったことから、先生は「しょうもないことすんな」と、ただのイタズラとして対処していた。
 予告状にテンションを上げる伊東をしり目に、生田は怪盗iで盛り上がる学年の雰囲気を不快に思っていた。
 そこから少しして、学年でも可愛いと噂のふわふわ系女子、牧野栞(まきのしおり)が鉛筆を盗まれたと言う。少しして理科室前の落し物置き場で鉛筆は見つかる。持ち手の隙間に、
【盗ませてもらいました 怪盗i】と予告状。
「怪盗iやるなあ」
「すごいねえ。全然気づかなかった」と盛り上がる伊東と牧野に、生田は結論を突きつける。
「これやったらの君らでしょ。その予告状の独特な罫線(けいせん)の色、どっかで見覚えあると思ったら伊東のノートと同じだし、牧野さんは沢山ある落し物置き場の中から迷わずこの理科室に来たし、違う?」

 学校で怪盗iを名乗り予告状を出したのは伊東、そして指示したのは牧野と、二人の共犯だった。
「何でこんな事したの?」と生田が聞くと、栞は、
「本物の怪盗iが出てきてくれると思ったから」と言った。
 実は二人の本当の目的は、本物の怪盗iをおびき出すことだった。自分たちがその名を名乗り広まれば、きっと姿を表すに違いないと二人は考えた。
 本物の怪盗iを探そうとした動機は、盗んで欲しいものがあるから。それは、牧野栞の祖父の形見である腕時計(うでどけい)だった。
「数学の先生が取り上げたきり返してくれないの。返してって言っても卒業までダメだって。離れたくないと思って学校に着けてきた私も悪いけど……」
 そう言って泣く牧野。伊東はその話を聞き牧野に協力したという。

 状況を理解した生田はその数学に先生に腹を立てる。
 だからこそ伊東と牧野に聞いた。どうして怪盗iに頼ったのか、ほかの先生に相談することではダメだったのか、と。

 伊東が言った。「俺の名前、伊東藍花を繰り返し言うと、怪盗iになるから……」
(伊東藍花→いとうあいか→いとうあいかいとうあいか→かいとうあい→怪盗i)

その答えに、生田は笑った。


転)
 牧野栞の時計を取り返すために生田は一人で奮闘(ふんとう)する。時計がどこにあるか、先生本人に(さぐ)りを入れると職員室であると分かった。
 生田は夜中、学校に先生が誰もいなくなったことを遠くから双眼鏡(そうがんきょう)で確認してから学校に(しの)び込む。前に(つちか)った技術のピッキングを駆使(くし)し職員室内へ入り、目当ての時計を手に入れる。そして、先生の引き出しに予め書いてきたノートの切れ端を入れた。
 翌日、生田は牧野に時計を渡す。驚く牧野に、生田は自分が小学生の時に怪盗iだったことを明かす。

 怪盗iとは、生田が小学生の時に友達に取られた漫画を取り返すために勝手に家に入り取り返した際、格好をつけて作った予告状に勢いで書いた名前だった。生田が人のものを取ったのはその一回だけだが、名前が(ひと)り歩きしていたのだ。

 名前の由来は、生田葵をローマ字に変化した後アナグラムにした名前。「生田葵→IKUTAAOI→KAITOUAI→怪盗i」

 今回生田が盗みを働いたのは、牧野の時計を取って返さない数学の先生への怒りがあったから。そしてもう一つ、伊東が怪盗iを頼った動機が、自分が怪盗iを名乗った理由と近く、あのころの気持ちを少し思い出したからであった。


結)
 生田は時計を取り返した際、先生の机に
【牧野さんが教育委員会に届け出る前に、この時計は私が本人の元へお返し致します 怪盗i】と書いたノートの切れ端を入れた。
 そのおかげもあってか先生は牧野に謝った。生田は少しやり過ぎたかと反省していたが、伊東が
「謝るくらいなら警察はいらない」
と熱く語り気持ちが軽くなるも、牧野が冷静に笑いながら
「警察がいるのは生田くんかもねえ」と言いゾッとする。

 一段落した頃にはもう学校で怪盗iの(うわさ)は聞かなくなった。でも、一生明かさないと決めていた怪盗iの秘密は、三人の共有の秘密となる。

 笑い合う伊東と牧野を見て、こんな顔を見れるなら、たまには怪盗iも悪くないと生田は思うのであった。
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