第1話

文字数 1,172文字

私はウミガメが好きだ。
毎日ウミガメのような生活を送りたいと思っている。

「『ピピー!!』時間になりましたので皆さんプールから上がってください」――小学校最後の夏休みが幕を下ろそうとしていた。
我が校は地域のスポーツ環境を充実させるため、夏休み中に小学校のプールを無料で開放している。
私はあまり泳ぐのが得意ではなかったが、友人の今泉との約束を果たすため、午前中はプールで過ごすことにした。

更衣室で着替えをしていると、今泉がプールバッグからエロ本を取り出してきた。「なあヒカル、昨日親父の部屋でエロ本見つけたんだけど、このあと見ようぜ」
私たちは急いで着替えを終え、学校の裏にある小さな神社の林の中で、その本を開いた。
そこにはローションまみれになった女が、「もうたまらない」といった表情で私たちを挑発している様子が描かれていた。
心を奪われるようなその光景に、私たちは他のことをすべて忘れ、目の前のエロスに没頭した。
競泳水着の隙間からモノをねじ込まれ、身体をくねらせる彼女に、私たちは興奮しただ大きく息を吸い、荒く吐き出すことしかできなかった。
二人は身を寄せ合い、身体は覆いかぶさるように見ていたため、足の腱が小刻みに痙攣し、下半身のふくらみに圧迫された膀胱は、締め付けられるような痛みを感じた。しかし、それでも私たちの目はその場から離れることはなかった。

――その後、私は家に帰ると、ドアには鍵がかかっていた。父親は仕事、母親と妹は親子料理教室に参加していたため、帰ってくるのは12時過ぎだと母親から言われていたことを思い出した。
私は玄関マットの下に隠してある合鍵で家に入り、洗濯機にプールバッグを放り込んだ。
リビングに入ると、冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を取り出して、そのままペットボトルからガブ飲みした。その爽やかな味わいが、私の食道を通ってゆっくりと胃袋に落ちるのが分かった。
時計を確認すると11時半。母親が帰ってくるまで30分以上ある。
私は興奮を取り戻し、よし、と頭の中で言葉にした。興奮を取り戻した心臓は重く血流を押し出し、波打ち、熱をめぐらせた。
誰もいないリビングで私はうつ伏せになって平泳ぎを始めた。局部を床にこすりつけながら無我夢中で床をかいた。外に発散することのできない熱は床に接した太ももや腹に溜まる。両手と両足を一緒に前方に押し出すようにして、床をかくたびくにきゅっきゅっと音を鳴らしながら少しずつ体が前進する。
やがて私は部屋の角で行き詰まり、首が90度に曲がった。冷蔵庫の下の埃が目に入り、涙がこぼれ落ちた。私は汐音を吐き、命あるものとしての存立感を、一瞬のうちに手放した。
涙をぬぐう。重い甲羅がのしかかったような体をゆっくり起こし、自分の身体を確認する。汗まみれになっているが、それ以外に異常はないようだ。
私はウミガメが好きだ。
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