大人味のアイスクリーム

文字数 883文字

チョコ・ミント・バニラ
 「おばちゃん、アイス頂戴」
 「はいはい、マサくんはバニラだね?」
 「正解!」
 「ヨウくんは何にする?」
 「えーと……チョコで」
 「はいよ、ちょっと待ってね」
 
 この兄弟は夏休みに四日に一度、うちの駄菓子屋にアイスを買いに来る。
 なぜ四日に一度かって?
 この子達のお小遣いが一日に30円で、うちのアイスが一つ100円だからだろうね。
 だから、四日に一度昼の熱い時間にここに来てアイスを食べて行く。
 お兄ちゃんのマサくんはいつもバニラ味で、弟のヨウくんは、気まぐれだ。
 メニュー表をじっくり見てから毎回違う味を頼むから、連続で同じ味を出したことが一度もない。
 
 「あ、また来たんだ?」
 「ミサちゃん、こんにちは」
 「遊んでいく?」
 「うん」
 兄のマサくんと娘のミサは同級生で、弟のヨウくんの三人でよく遊んでいる。
 夏休みの平和な光景だ。
 遊び疲れただろうタイミングを見計らって私は三人分のアイス作った。
 アイスにサクサクしたビスケットを添えて用意した。
 ミサのアイスは明日から販売予定の新商品。
 「あ、お母さんありがとう……あれ?これ何味?」
 「ミントよ。スッキリした味の大人の味よ」
 娘は青とも緑とも言える不思議な色合いのアイスをまじまじと見つめてからスプーンで掬いあげた。
 「んっ!なにこれ苦い……薬みたい」
 「んー、やっぱり子どもには食べにくいかな」
 「僕も食べていい?」
 隣でバニラを食べていたマサくんが腕を伸ばして、やっぱり苦そうな顔をした。
 「僕も!」
 向かいのヨウくんも腕を伸ばした。
 「んー……ん?スッキリして美味しい」
 「えぇー嘘だぁ」
 「僕もう一回食べる」
 ミサとマサくんが驚いた顔をしている中、勝手にチョコ味のアイスとミント味を入れ替えたヨウくんが美味しそうにミント味のアイスを食べて、大人の味を食べられなかった歳上の二人は悔しいのかブーブー言っていた。
 
 その日以来、四日に一度のアイスの日は、マサくんがバニラ味、ヨウくんがミント味を頼むようになった。
 ミサはチョコミントで少しずつ慣らすと言っていたけど、まだ苦いみたい。
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