文字数 701文字

 今日、僕は死ぬ。自分の意思で、この高いビルの屋上に立っているんだ。でも一人じゃない。誰よりも僕と親しかった君にも、一緒に死んでもらうよ。
 僕は人よりもゆっくりと生きていた。急ぎすぎると疲れてしまうし、楽しくもないからね。でも、そんな僕を人はのろまだと、ぐずだと怒鳴りつけた。その中でも君は、一番的確な言葉を、僕に突き刺してきたよね。そこに不明瞭さなんてものはない。僕の心を丸裸にしたような、全ての急所を叩き潰していくような言葉で、君は僕を非難した。
 僕は人よりも個性的な見た目をしていた。こればかりは生まれ持ったものだから仕方のないことだよね。でも、そんな僕を人はブサイクだ、バケモノだと罵った。その中でも君は、一番攻撃的な言葉を、僕に投げつけてきたよね。そこに遠慮なんてものはない。理性というフィルターのかかることのない、心の奥底から生まれ出たままの表現で、君は僕を蔑んだ。
 僕は人よりも感情豊かだった。無理矢理にでも感情を抑え込んでしまうのはすごく悲しいことだからね。でも、そんな僕を人は軟弱だ、大袈裟だと馬鹿にした。その中でも君は、一番長い間、僕のことを笑い続けたよね。そこに終わりなんてものはない。例え僕が楽しいことをしようとしている時でも、寝れなくて困っている時でさえも、君は僕を嘲笑した。
 君は僕だ。いや、正しくは僕だと思っていたと言うべきか。僕がやめてとどれだけ頼んでも、決してやめないようなやつは、それはもう僕じゃない。あぁ、君があと少しでも優しければ、あるいは君が存在しなければ、こんなことにはならなかっただろうに。もう過ぎた話なのだから別にいいけれど。
 こうして、僕は身を投げた。
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