第1話

文字数 1,768文字

禁足地。

そこは決して足を踏み入れてはいけない場所。
その場所には古くから何かしらの言い伝えが存在し、禁足地となった所以が必ずある。興味本位や好奇心で入り込むなんて言語道断なのである。

しかしどの時代にも、何処にでも、自分の勇気や強さを鼓舞したいと考える者は一定数いるのである。
かく言う僕もそうであった。

僕の故郷のあるA県の某所にある禁足地。ここは昔から「絶対に近付くな。鬼に連れて行かれるぞ」と、各家庭の親、そして祖父母からも耳にタコが出来るほど言われるのである。代々この地に住んできた僕の家。僕も両親だけでなく、祖父母からも禁足地の鬼の話は散々聞かされた。
それだけ大人から日々言われると、子供心に「あそこは本当にヤバい」と、決して近付かなくなる。

しかし、一部のヤンチャな子供達は違った。
「行くな」と言われ続けると、行ってみたくなるのも人間の性である。

その日、中学生のX、Yと僕の3人は、禁足地を肝試しすることにした。正直、最初は乗り気では無かったのだが、XとYの好奇心に気圧された。いや、それだけでなく、僕自身の禁足地への畏れと憧れが相まって、僕が最終的には一番張り切っていたかもしれない。

禁足地と言っても、規模の小さな林である。一周歩くにも、15分程度で事足りる。
禁足地故に手入れがされていないので、木々がより鬱蒼と生えている。

入口には鳥居があった。お札がこれでもかという程貼ってあり、不気味さを醸し出す。
早速僕たちは肝試しを始めた。ルールは簡単で、禁足地内でたった1人で15分間過ごすというもの。
15分経過したら、外にいる者が電話をし、戻って来るよう伝えるのだ。

僕たちは順番に肝試しをする。
特に何も変わったことは起きない。
肝試しを終えて、家路に着く。

「何か、呆気なかったなー。」
「禁足地なんて、ただの迷信だよな。」
「じいさんの、そのまたじいさんも怯えていた場所だったのに。オレはその迷信を打ち破ったぜ!」

そんな感想をお互いに話しながら、僕は違和感を実は抱えていた。

「僕たち、何も変わったこと、無いよね…?」
「変なこと言うなよ。俺もお前もいつも通りさ。」
「あれ?Yはどこ行った?」
「Y…??俺たち2人だけで来ただろ?」
「え!そうだっけ?」
「そうだよ。そもそもYって誰だよ??」
「え!何言ってるんだよ?Yと言えばほら、坊主頭で野球部のエースで…」
「お前寝ぼけてるのか?野球部のエースと言えば、隣のクラスのSしか居ないだろ!」
「そう言えばそうだよな…」
「しっかりしてくれよ!鬼が出たとでも言いたいのか??」

Y…
確かに一緒に来たハズなのである。しかし帰りにはXの記憶からYが抹消されてしまったかの如くであった。
XとYの2人が僕をハメようとしているのかとさえ思ったほどである。

モヤモヤしながら翌日学校へ行くと。
Yの席が無かった。席だけでない。クラスの名簿から消えていた。誰に聞いても、Yを知らないと言う。
僕自身の頭がおかしくなったのかと思った。僕以外の誰もYを知らないのだ。
放課後、Yの家に行ってみた。何とYの自宅のあった場所はコンビニになっていたのだ。コンビニの店員さんにYの自宅を聞いてみても、怪訝な顔をされるだけであった。少なくとも10年はここでコンビニを経営していると…
そんなハズ無いのだ。先週も僕はYの家でゲームをして遊んだのだから、間違えるハズなど無い。

僕は混乱したまま、月日だけが流れた。Yの居ない日常がやがては当たり前となる。たまにYのことを思い出すが、Y自体の存在が僕の夢であったようにも思えてくる。それだけ長い月日が流れた。
僕は就職の為に故郷を離れ、他県へ引っ越した。

数年後。
中学時代の友人であるXから、結婚式の招待状が届いた。
「X…。懐かしいな。元気でやってるかな。昔は馬鹿ばっかりしてたな。」
そこで禁足地とYのことを思い出した。
それまで新天地での仕事に追われた生活で、全く思い出さなかった。

Xの結婚式のあと。
久しぶりに故郷を散策した。勿論、あの禁足地にも立ち寄った。

「Y…。絶対キミは居たハズなんだ。」

禁足地の入口である鳥居の陰に誰かいる気配がした。

「Y!?」

咄嗟にYの名前を呼ぶ。何故かはわからないが、Yが居た気がした。

ふと鳥居に何十枚も貼られているお札の一枚に目が留まり、愕然とした…
そこにはYの名前が書かれていた。
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