第1話

文字数 622文字

交通トラブルとは本当にいやだ。

前を走っていた男が、「あおりやがって」と降りてきた。強面のおじさん。


「違います!そんな事してません!」

「あぁん?お前!嘘つきやがって!」

「あおってなんかいません!」

「しらばっくれるな!!」


俺は、強面おじさんにほっぺをグーで殴られた。そのまま吹っ飛んで、対向車線にはみ出してしまった。

案の定、大きなトラックに撥ねられ、俺の体は一反もめんの様にペラペラになった。

ヒラヒラと春風に乗って、青空へ舞い上った。


「おい!待て!」


と遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
あぁ、うまく逃げ出せたな。
良かった。


俺は今、青い空を飛んでいる。

 
ヒラヒラと。

一枚の布の様に泳いでいる。


鯉のぼりもこんな風に空を泳いでいるのだろうか。


気持ちがいいな。


遠くから子供たちの声が聞こえる。学校が近くにあるようだ。
運動場から俺を指差している。



街中の上。



誰かが俺に向けてスマホを構えている。
SNSで炎上するかもしれない、なんて事を思いながら飛んでいた。



知らない間に高くまで舞い上り、誰かのベランダへと来ていた。


洗濯かごに入った俺を、誰かが物干しハンガーに干してしまった。

春風に吹かれながら、ヒラヒラと揺られいい気分だ。

隣を見ると、ピンク色のテロテロのパンティが揺られている。眩しくて目を細めるが、嬉しい気持ちでいっぱいになった。そのパンティの隣にはイチゴ柄のトランクスが揺れていた。


俺は後で知る。

そのトランクスの持ち主が……

俺を吹っ飛ばした犯人だという事を。




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