偽者のアリア

文字数 4,667文字

「さあ人造アリア、今日は私の代わりに学校へ行きなさい」
「分かったわアリア」

 そうして今日、人造アリアは学校へと向かった。

 天才科学者の娘としてこの世に生まれたアリア。彼女はまだ学生ながら、既に大学院レベル以上の科学の知識を有していた。
 しかし陰気な彼女が論文を世間に発表することはなく、その才をひた隠しにして1人研究を続ける。

「あれアリア、また学校を休んでどうしたの」

 アリアの母が彼女の部屋を訪ねる。

 それと同時に、アリアはある薬をお湯に溶かしてお茶にして、それをずずずと飲み干した。

「お母さん」
「あらま、どうしたの声。別人みたいな声して、また風邪を引いてしまったのかしら」

 アリアが薬入りのお茶を飲んだ途端、声が別人のようにがらがらになってしまい、母は彼女が風邪を引いたのだと認識してしまった。

「ふっふっふ、これぞ我が2大発明の力よ」

 アリアは2つの大きな発明をした。

 1:人口的に作成した言わばクローンである人造アリア
 2:声を別人のようにしゃがれさせる喉潰しの薬。お湯に溶かしてお茶状にして飲むと声ががらがらに

「はっはっは、この喉潰しの薬を使えば、お母さんを私が風邪だと認識させられる。さらに!
 さらに!人造アリアを使って代わりに学校に行ってもらえば、私は自宅に引きこもり、自分の研究に勤しむことができるのだ!」

 風邪を引いたと偽り、人造アリアを学校に行かせる作戦。母は人造アリアの存在を知らない。

「人造アリアは言わば私の奴隷。さあ、退屈な学校の授業を受けるのがあなたの責務よ」

 こうしてアリアは、今日も人造アリアに嫌なことやりたくないことを任せっぱなしにする。

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「アリアおはよう」
「おはよう、颯太くん」

 クローンである人造アリアが学校へ到着する。

「アリア、今日学校が終わったら、またカラオケに行かないか」
「えっ本当!嬉しい、私も颯太くんとカラオケ行きたい!」

 率直の言うと、人造アリアは颯太に恋をした。アリアのクローンである人造アリアは、颯太くんに惹かれている。その優しく、活発で、人思いの颯太くんに。

「颯太くんとこうして仲良くなって、一緒に遊ぶようになってどれくらい経つかな?」
「だいたい1年半くらいかな」

 颯太くんと人造アリアは1年半程度前からこのような仲で、一緒に遊びに行くことが多くなった。人造アリアもそのことを嬉しく思っている。

「アリア、そう言えば最近、クラスの植物委員としてスズランの花を育ててるみたいだね」
「ええ。このスズラン、小さくて丸っこい花が可愛らしいでしょ」

 人造アリアは植物委員に所属し、クラスの片隅のポットでスズランの花を少し前から育て始めた。

「こんな幸せな日常、私は颯太くんと出会えて本当に幸せだよ」


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 アリアと人造アリアが自室に集まる。

「さあ人造アリア。学校の宿題はあなたがやっておきなさい。制服の手入れも、全てお願いするわ」
「はい……」

 今日も人造アリアはアリアの奴隷として働く。

「そう言えば、あなたに言わなければいけないことがあるの」
「ど、どうしたの急に……」
「実はね、私のクローンであるあなただけど、その知能は平凡そのもの。クローン人間を作ると、何故か知能指数を引き継ぐことができず、そこが問題になっていたのよね」

 人造アリアはアリアに劣る。それは薄々人造アリアも気づいていた。

「だけど、ようやくクローンを作る際に知能指数を保つ方法を思いついたの。だから、これから人造アリア2号の制作に取り掛かるわ」

 アリアは現在の人造アリアよりも優秀な人造アリア2号を作るようであった。

「ちなみに、人造アリア2号が作り終われば、今のあなたは用済みよ。その時は取り壊し作業に掛かるから」
「……」

 人造アリア2号は現在の人造アリアよりも優秀な状態で生まれてくる。そうなれば、現在の人造アリアが不要になるのも無理はない。

「薄々気づいてた。最近、優秀な人造アリア2号を作ろうとしているのを」
「そう、馬鹿なお前の頭でもそれぐらいは感じていたのね」

 人造アリアはアリアの日々の研究の様子を伺っていた。薄々、人造アリア2号を作ろうとしていること、そして現在の彼女が廃棄される予定であることに感づいていた。

「さあ、あなたはもうすぐ死ぬんだから、せいぜい学校生活を楽しみなさい」
「はい……」

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 次の日

「さあ人造アリア、今日も私は研究が忙しいの。今日も学校よろしくね」
「はい」

 そうしてアリアは人造アリアに学校を任せて、母に風邪が長引いていると嘘を付くために喉潰しの薬を飲む。ティーカップに薬を溶かし、お茶にしてごくごくと飲む。

「げほっげほ。それにしてもこの喉潰しの薬まずいわね」

 風邪を引いたように、まるで別人のようなしゃがれた声に変化させる喉潰しの薬。少々苦いのが難点である。

「ってあれ、なんだこの花の花弁みたいなものは」

 アリアが薬入りのティーカップを覗き込むと、花の花弁のかけらのようなものが浮いているのが見えた。

「まあいいわ。さあ人造アリア、学校へ行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」

 そうして人造アリアは今日も学校へと旅立つ。
 そうすると今度は母がアリアの元を訪ねた。

「アリア、今日の体調はどう?」
「今日も喉が痛くて、まだ学校には行けないよ、お母さん」
「あら、ひどい声。まるで別人みたい」

 アリアは今日も風邪と嘘を付き、母をだます。学校に行かないために。

「今日ちょっとお母さん、おばあちゃんの足腰を診てもらうために病院に行ってくるから、1日留守にするけど大丈夫?」
「心配ないよお母さん」

 母な1日家を留守にするようであった。昨日から聞いていたことであったが、再度心配なアリアのために確認したようであった。

「じゃあ、行ってくるね」

 そう言って母もまた出掛け、家にはアリアのみが残された。


 学校---


「颯太くん、おはよう」
「おはよう、アリア」

 人造アリアは大好きな颯太くんに挨拶をする。

「ねえ颯太くん、1時間目の授業が終わったら大事なお話があるの。屋上に来てもらえないかしら」

 人造アリアは授業の後、颯太くんに大切な話があることを伝える。
 そして朝の登校時間が終わり、1時間目の授業が始まった。

 1時間目の授業の開始---

「さて、国語の授業を始めます」

 国語の授業が始まる。

「そう言えばアリアさん。最近教室で植物委員としていくつかの花を育てているようだけで、スズランのお花はもう育てるのをやめたのかしら。私、あのお花が好きだったのだけれど」

 先生が教室で育てていたスズランの花が無くなっていたことに気づいた。

「ちょっと枯れてしまって。栄養が足りなかったみたいで」
「あらそうなの、残念」

 人造アリアは栄養不足でスズランが枯れてしまったことを説明した。

「またスズラン、育てて欲しいわね、先生」
「ええ、また上手く育てられるように持ってきます」
「ありがとう、アリアちゃん。ごほん、改めて授業を始めます」

 先生が授業を始める合図を出す。
 皆が一斉に教科書をめくる音が鳴り、それと同時にプルプルと先生の教員用携帯が鳴る音がした。

 プルプル、プルプル

「はい、○○〇学校の〇〇です」
「だす、けて……だす、けて……たすけて、先生!!」
「だ、誰ですかあなた」

 声が非常にしゃがれた変な人物から着信があった。先生が何か生徒や親からの電話かと思い電話に出てみれば、声がつぶれた変な人物からの電話であり驚いてしまった。

「ど、どうしたのですか」

 先生が訪ねる。

「おかあ、さんに、電話しても、運転中か、何かで、出てくれない!!だがら、先生に、電話して……」
「要件はなんなのですか!」
「心臓が、苦しい!!たす、げて!!」

 電話の主がどうも助けを求めているようで、心臓の苦しさを訴えていた。

「あ、あなたは一体誰なのですか!?」

 先生が電話の主の名前を尋ねる。

「あたしは、アリア!」

 電話の主は、自分がアリアだと答えた。

 しかし

「変な事を言わないで下さい。アリアさんは既に学校に登校しており、今も私の目の前で授業を受けています」
「ちがう、にせ、者、だ!」
「何を言っているのですか。それにあなたの声はアリアさんの声ではありません。そんなしゃがれて

で、アリアさんな訳ないでしょう!」
「わたしは、アリア……」
「いたずら電話ですね。切りますよ」
「心臓が、しんぞうが……」

 先生は変な悪戯電話に出てしまったことを後悔し、電話を直ぐに切った。
 そして授業は再開され、1時間目が終了した。

 人造アリアと颯太は屋上へと向かう。

「颯太くん、実は伝えたいことがあるの」
「なんだい、アリア」
「実は私、颯太くんのことが好きなの」

 人造アリアは率直に颯太に告白をした。

「ほ、本当かいアリア。実は僕も同じで……」

 人造アリアは颯太もまた自分のことを好きなことを知り、喜び歓喜した。

「これから私達、恋人同士ね」
「ああ、アリア。改めて、よろしくな、恋人として」

 アリアは本当に幸せだ。

 なんて健気なのだろう。

 幸せで夢のような感覚。
 そんな夢見心地な間隔を堪能していると、颯太が口を開く。

「あれ、アリア。なんか花の花弁みたいなのが制服についているよ」
「あら、本当」

 颯太はアリアの制服に花の花弁が付いていることに気づいた。

「スズランの花弁が付いてたみたい。教室で育ててたスズランを捨てた時に付いた花弁かも」
「ああ、あの花の花弁か。まったくお茶目なんだから、アリアは」

 颯太は納得した。

「それにしても残念だね、アリア。先生も言ってたけど、あの美しいスズランが枯れてしまったようで」
「そうだね、颯太くん」

 人造アリアは颯太に頷いた。

 しかし

「でも、そんな美しいスズランにも毒があるのよ」
「へえそうなんだ。知らなかったよ」
「スズランをお茶にして飲むと、血圧低下、心臓麻痺を起こして最悪死に至る」

 スズランの毒に関して人造アリアは言及する。

「ねえ、颯太くん。私は綺麗?」
「え、勿論綺麗だよ、アリア」

 人造アリアは頬を赤く染めた。
 しかしその目はどこか鋭く、何か背後に闇を抱えるそんな目をしていて……

「ありがとう颯太くん。でも、綺麗で美しいスズランにも毒があるように、颯太くんが美しいと評価してくれた私にも、実は毒があったらどうする?陰があったらどうする?それでも愛してくれる?」
「も、勿論だよアリア。人は全部が全部美しい訳じゃない。アリアのどの一面も、全て僕が愛してみせるよ」
「その言葉を聞いて、安心した。颯太くん、やっぱりあなたは私の大好きな颯太くんなんだ」

 そうして2人はキスをした。

 なんて幸せな日、なんて美しい恋物語。

「ありがとう、私を作ってくれて。そしてさよなら」

 幸福な日常を掴んだ、偽物の物語---







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