文字数 942文字

「また私のせいでケガさせちゃったね……。ごめんね」
今さっきで頭上から転がり落ちてきた大きな岩の横で、申し訳なさそうにトリーテがつぶやく。
この巨石が彼女の横から落ちてくる映像が見えてから、3秒しか無かったので危機一髪だった。

「痛そう……。すぐ治すからね」
トリーテがそっと傷に触れると、暖かい感覚を感じるとともにあっという間に傷が治っていく。
彼女のこの不思議な力で傷を治してもらうのはもう何度目だろう。トリーテが無事で良かった。

「ううん。いつもありがとう」
トリーテに手を引いてもらいながら立ち上がり、服についた枯れ葉をパンパンとはらい落とす。
まぶしい夕日に照らされた木々の長い影が、複雑に交差して地面に絵を描くように伸びている。

「そうだね。早く帰りましょう」
急ごうと今度は僕が彼女の手を引く。夜になってからの魔物はまだまだ自分の腕じゃ倒せない。
しかしさっきので何回目だったろうか。今日は特にトリーテに迫る危機が多いような気がする。

冒険の仲間になってもらった小さな頃から。彼女はなぜか危険な目にあう事がとても多かった。
周りの大人たちは魔女の呪いだとか彼女の先祖がなんたらとか言っているが、よくわからない。
とりあえず、僕が人に迫る危機を見る事ができるようになったのは彼女がキッカケなのだった。

そしてまた、彼女が傷を治す力を得たのも。僕が彼女を守る時にケガした事がキッカケだった。
最初はスリ傷を治せる程度だった彼女の力も、さっきのように骨折した腕を治せるまでになり。
僕もまた。最初の頃に比べると、危機が起こるまでに1秒ほど早く見始められるようになった。

「あっ。村が見えてきた!」
嬉しそうにこちらを振り向くトリーテに、僕もほっとひと安心した顔を向ける。無事に帰れた。
それでも油断はできない。村に確実にたどり着くまでは何の防御もほどこされてない外なのだ。

近づく夜の闇に反応して形を変えていく木々の間を、彼女の手を取りながら慎重に降りていく。
この大事な冒険仲間を。たったひとりの僕の仲間を。これからも彼女を危機から守り続けたい。
そのためには、より速く危機を察知しなければ。どんな危機からも救える強い力を得なければ。

そして絶対に彼女より長く生きるんだ。心から安心しながら、この世を去る事ができるように。
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