第1話

文字数 2,089文字

「パトロールに行ってきます」
 宝庵おじさんのどら焼き工場、ディクソンメンは今日もパトロールに出かけます。
「ああ、言ってき。気い付けるんやで」
 どら焼きを作りながら、おじさんはディクソンメンに声を掛けました。
「はい。分かりました」
「なんかあったら、すぐに知らせてや」
 ついなちゃんも微笑みながら送り出しました。
「それいけ!ディクソンメン!」
 ディクソンメンは煙突を通り抜け飛び出していきました。

 ディクソンメンが空の上からパトロールしていると、どこからともなく泣き声が聞こえてきました。
「あれ、わんこじゃないか。こんな所でどうしたんだい?」
「道に迷って、お腹がすいて動けないの」
「なら僕の顔をお食べ」
 ディクソンメンは自分の顔をのどら焼きをもぎ取ってわんこに手渡しました。
「ありがとう!ディクソンメン!」
「食べたら送っていくよ」
 わんこがどら焼きを食べていると、般ニャーが走ってきました。
「あ!ディクソンメン!いい所に!」
「どうしたんだい?そんなに慌てて」
「ヒワイドリが町で暴れているの!今、田中先生が乳を揉まれているわ」
「なんだって!僕はそっちに行くよ。二人共、どら焼き工場の宝庵おじさんの知らせてくれないか」
「分かったわ。ディクソンメンも気を付けて」

「うむ、いい乳だ」
「い・・・いや・・やめて」
 ヒワイドリに乳を揉まれ、上気して顔が赤くなった田中さんが嫌がっていました。
「やめろ!ヒワイドリ!」
「誰かと思ったらディクソンメンではないか。邪魔をするな」
「そうはいかない。嫌がる婦女子に何てことするんだ」
「誰が腐女子ですか!」
 そう抗議する田中さんですが、ディクソンメンには意味が通じませんでした。
「え?婦女子じゃないんですか?」
「私は腐ってなんかいません!」
「腐って?え?」
 ディクソンメンには通じなくても、ヒワイドリには通じていました。
「いやお前腐ってるだろ。どれだけ薄い本抱え込んでいるんだ」
「わ・私は教師です!薄い本なんて持ってません!」
 なぜヒワイドリが知っているかは秘密です。
「とにかくやめるんだ。セクハラだぞ」
「このヒワイドリからセクハラを取ったら、何が残るというのか。これは俺のアイデンティティをかけた行動なのだ」
「それが迷惑だと言っているんだ」
「なら力ずくでとめてみろ。顔の欠けたお前に何ができるというのだ」
「そんなもの、愛と勇気でどうとでもなる」
「面白い、では試してみようではないか」

「宝庵おじさん!」
「おや、どうしたんや二人共血相変えて」
 どら焼き工場にわんこと般ニャーが駆け込んできました。
「ディクソンメンが大変なの!」
「なんやて!ついな!どら焼き焼くで!」
「分かった!ディクソンメン号の準備しとくわ!」
「頼む!前鬼、後鬼の二人はついな手伝ったり!」

「くっ・・・」
「やはり欠けた顔では実力の半分もだせぬか」
 威勢のいいことを言っていたディクソンメンでしたが、ヒワイドリにボコボコにされていました。
「もう貴様に打つ手はなかろう」
「後は、勇気だけだ」
 愛がどこに行ったかはともかく、サイボーグ戦士の名台詞を図らずも口にしたディクソンメン。
 と、どこからともなくエンジン音が響いてきました。
「ディクソンメン!新しい顔や!」
 ディクソンメン号から体をのりだしたついなが、新しい顔をディクソンメンに投げつけました。
「元気100倍!ディクソンメン!」
 顔が新しくなりフルパワーとなったディクソンメンに、もはや敵など存在しません。
「ディクソンメンビーム!!」
 目から必殺のビームを放つディクソンメン。
「さらばだ!!」
 大爆発とともに、ヒワイドリが吹き飛んでいきました。
「ありがとう。ディクソンメン」
 田中さんがディクソンメンに駆け寄りお礼の声を掛けました。
「はい。大丈夫です。それと、私、腐ってませんから。腐ってませんから!!」
 大事な事なので二度言いました。が
「え?さっきから何を?」
 相変わらず分からないディクソンメンでしたが、宝庵が何となく察しました。
「まあまあ、せっかく助かったんやから、これ以上は追及せんのが互いのためやで」
 言いながら田中さんに近づき、耳打ちをしました。
「あとでヒワ×ヤイの薄い本貸したるわ」
「な、なんで宝庵さんがそんな本持ってるんですか」
 さすがに引く田中さん。
「蛇の道は蛇、というやろ。それでやな・・・」
「・・・交換条件ですね。分かりました。鬼×ついの薄い本、用意しましょう」
 孫娘の薄い本に狂喜乱舞する最低最悪の存在。それが宝庵といえましょう。
「なんやじいちゃん。何話とんのや?」 
「おお、ついなや。なんでもない。それより早く帰ろか」
「せやな。ディクソンメン、買えるで」
「分かりました。田中先生、送りますよ」
「ありがとうございます」
 こうして、ディクソンメンのおかげで平和が守られました。
 ありがとう!ディクソンメン!


 鬼子さんの出番は薄い本だけ・・・
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