第1話

文字数 619文字

「あなたの髪って、スマホの電波みたい!」

私は、つい、そう言ってしまった。

彼は若ハゲ。
スマホの電波の様に数本生えているだけ。
ケンカした時につい、ひどい事を言い放ってしまった。

彼は潤んだ瞳で頭皮を触り、私の部屋を勢いよく出て行った。
しまった。彼を傷つけてしまった。
確かに、あの電波の様な髪の毛にはイラついていたが……でも、彼を愛していた。



数日後、
朝起きると、アパートの下から何か声が聞こえてきた。カーテンをシャッと開け、窓を開けて下を見下ろした。



「圏外にしてきたんだ!」


彼がそう叫んでいる。




意味が分からない。



彼が被っていたキャップを投げ捨てる。
すると、朝日が何かを反射させた。
眩しすぎて彼が見えない。目を細めてよく見てみると……


反射しているのは彼のスキンヘッドだった。
いや、ハゲ頭か。



「圏外にしてきたんだ!」



その意味がようやく分かった。彼は数少ない毛を剃り落としてきたんだ。

スマホの圏外の様に。
(注:電波の線がない状態。すなわち、毛がない状態の意味)



「これだったら、いいだろう? 結婚してくれないか?」



私は電波があろうが、圏外だろうが、あなたを愛しているのよ!



「いいわよ!」
と私はプロポーズを受け入れた。


彼の肌色の頭頂部は、美しい程にキラキラ煌めいていた。



それから数ヶ月後、
私は彼の誕生日にヅラを贈った。
彼はすごく喜んでくれた。

結婚した今も思い出す事がある。

スマホに圏外の表示が出ると思い出す。

ミラーボールみたいに輝く、彼のハゲ頭を。


end
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