第1話 逆光

文字数 475文字

「行って、しまうのですね」

扉に手を掛けたあなたの背に、そう話しかけた。伝えたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。

大丈夫、すぐ戻ってくる。

わたしを宥めるように、自分に言い聞かせるように、あなたは優しい声でそう言った。

顔を上げると、いつものように穏やかな眼差しで、こちらを見ている。

途端に耐え切れなくなって、その表情が、段々と涙で霞んでいく。

またすぐにでも、手紙を出すよ。

短くそう伝えて、振り返ったあなたの服の袖を、思わずぎゅっと掴んだ。

「待って、行かないで…!!」

今まで堪えていた涙が溢れて止まらない。

本当はわたしにこんなことをする資格はない。分かっているけど、掴んだ袖を離すことはできなかった。

「あなたまで…わたしを置いて、行かないで…」

あなたはゆっくりこちらを振り向いて、わたしの手を優しく包み込んで、こう言った。

きっと、戻ってくるよ。

この時のあなたの表情は、覚悟と決意に溢れていた。本当に強い人だと思った。

朝を告げる眩しい光が、扉の外から差し込んでいる。

「…どうか、ご無事で…!」

勇んで行くあなたの背に、こう声をかけずにはいられなかった。
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