第1話

文字数 500文字

 作り話を広めた。
 夜な夜な小道で人を驚かす、化け犬の話。
 寺子屋友達、字を教えてくれる浪人の先生、長屋の女衆を怖がらせて楽しんだ。
 怪談を楽しんでもらうのが、好きだった。

 しばらくして、夜の小道で、人が死体で見つかった。
 化け犬がやったと皆が噂し、黙していたおちよの前に、噺の出所を聞きつけた南町同心寒川喜蔵が現れ、曰く。
「下手人が、化け犬のせいにしようと噂を広めている」
 数日後、噂は化け犬が本物の下手人を探しているという形に変わる。
 鼻の利く化け犬から助かるには、奪った財布を元の場所に捨てて、臭いを断つしかないと。

 夕暮れ、寺子屋で浪人の先生を呼び止めた。
「先生が人殺しをしたのを、見ました。だから最初は、化け犬のせいにしました。でもお侍様が来たから、下手人が現場に戻りたくなる話にしました。お侍様は先生がくるのを小道で待ってます。このままじっとしてれば、お侍様は目星を失います」
 怪談を操り、大人を煙に巻く少女に恐れをなして、浪人がおちよを殺そうとした。

 間一髪、間に合った喜蔵は、おちよに何故を問うていた。
「あたしに字を教えてくれたのは、先生だから」
 おそろしくても、ただのこどもなのだ。
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