第1話
文字数 1,998文字
天気の良い土曜のお昼。駅に近い銀天街の中にある人気の喫茶店で、中年男のおれはコーヒーを飲みながら女の子と向かい合って座っている。
「そしたら、あんまり引っ張ってもあれだしね。ここらで渡しとこうかな」
その娘、マキがテーブルの上に洒落た小さなバッグを乗せ、中を探りだした。バッグはヴィトンのもので、値段は45万。なぜ知っているのかというと、おれが買ってプレゼントしたものだからだ。去年の11月、彼女の誕生日に。
そして1月の末近く、おれの誕生日が近い今日、マキから呼び出された。用件はお察し、である。
あれ、どこに潜り込んでんだ、と言いながらマキはバッグを覗き込んでガサゴソやっている。しかしまあなんだ、45万のバッグのお返しなわけだからな。どうしてもある程度は期待してしまう。
40近い年のおれは、広告関係の仕事をしている普通のおっさんだ。飲み友を中心に仲の良い人間は多い。しかしわざわざ呼び出して誕生日プレゼントを渡そうとしてくるのは、今年はこのマキだけだ。ありがたいねえ。
マキは『かなり変わり者』と評価されてる娘だ。服も持ち物もセンスは良く、メイクキメキメの顔はまあ可愛い方だ。しかし本人は否定しているものの、言動はかなりユニークである。そこがね、今から渡されるものに対して少し不安を感じる。
「あったあった、はいこれ。おっちゃんにプレゼント!」
満面の笑みを浮かべたマキが、小さな紙袋をおれの目の前、コーヒーカップの横に置いた。
「お、おう。ありがとう」
うーーん! とりあえず礼は言ってみたものの。こんなことを言ってはなんだが、袋が小さい。手のひらに乗るくらいのミニマムサイズだ。100円玉を入れるとしたらちょうどこれくらいが良い、て大きさだ。中身について、益々不安が高まる。
「えーーと、開けてみていいかな」
マキに聞くと、明るくいいよいいよーー、と返事。良いものだよ、という自信があるんだろうか。
小さな紙袋に封をしているハート形のシールを丁寧に剥 がし、袋を逆さにすると、中身が手のひらの上に落ちてきた。
しばらくマジマジとその物体を眺めたあと、おれの口をついて出た言葉は。
「なにこれ」
「はああ!? なにこれって、逆になに!」
ニコやかだったマキの表情が険 しくなる。
手のひらの上にあるのはシャツのボタンくらいのサイズの、金色の昔のお金っぽい形の物体だ。ビニールで包装してあり、中に一緒に入っている紙には『福銭』と書いてある。金運上昇のお守りみたいなもんか。
「おっちゃん、お金大好きやろ? そやからウチが一生懸命探してきたんよ!」
「あ、そう」
「だから、あそうてなに! あーーお前、安そうなもん寄越しやがって、て顔してるなっ。高いバッグのお返しがコレかて顔してやがんなっ」
マキの大きな声で、そばを通りかけていたカップルがギョッとしてこちらを見た。
「そんな顔してないだろ、思ってないって、そんなこと」
「嘘つけっ。お前ねえ、プレゼントを見た目や値段で判断すんのか? 大事なのは、それに込められてる気持ち、贈る心なんだからねっ。そこを汲み取らないと、ちゃんと!」
なんか10以上年下の娘から説教食らっている。
「はい。おっしゃる通りです」
「ほんならもう一回、あからさまにガッカリした顔してゴメンなさい、ありがとうて言いなさい!」
ありがとうなんて、無理に言うもんじゃないだろう。と思ったのが顔に出たようで、マキは益々不機嫌になる。
「何年生きてんだよ、まったく! 『ありがとう』と『ごめんなさい』がちゃんと言えないのは、ダメダメ人間だよ? ちゃんとしようよ、そういうとこ」
仕方なくマキに頭を下げ、ごめんなさい、そしてありがとうございます嬉しいです、と言い直す。
そのあとしばらく彼女からの説教が続き。ようやく解放されてから2人分のデザートとお茶代を払い、マキを自宅そばまで車で送って行ったのだった。
それから4日ほど経って。おれはふと思い立ち、ネットでマキがくれたものについて調べてみた。どうせネット通販で買ったもんだろうし、と思って検索したら、しばらくして見つかった。で、その結果を見て驚いたのなんのって!!
「15万円……だとう……!!?」
手元にある実物とネット上の写真を見比べると、間違いなく同一のものだ。
『大事なのは、それに込められてる気持ち、贈る心なんだからねっ』
マキのセリフが頭の中でクッキリと再現される。
彼女はツレから陰 で『奇行種』などと言われている変わり者だ。だけど根は本当に優しくて純粋な、スゴくいい娘だ。だからおれは彼女の誕生日に、値段を気にせず一番欲しいものを贈らせて、と言った。そしてマキは、彼女なりに精一杯それに応える贈り物を返してくれたんだろう。
おれは大急ぎで、彼女に丁寧過ぎるほど丁寧なお礼のLINEメッセージを送った。ありったけの感謝を込めてね。
「そしたら、あんまり引っ張ってもあれだしね。ここらで渡しとこうかな」
その娘、マキがテーブルの上に洒落た小さなバッグを乗せ、中を探りだした。バッグはヴィトンのもので、値段は45万。なぜ知っているのかというと、おれが買ってプレゼントしたものだからだ。去年の11月、彼女の誕生日に。
そして1月の末近く、おれの誕生日が近い今日、マキから呼び出された。用件はお察し、である。
あれ、どこに潜り込んでんだ、と言いながらマキはバッグを覗き込んでガサゴソやっている。しかしまあなんだ、45万のバッグのお返しなわけだからな。どうしてもある程度は期待してしまう。
40近い年のおれは、広告関係の仕事をしている普通のおっさんだ。飲み友を中心に仲の良い人間は多い。しかしわざわざ呼び出して誕生日プレゼントを渡そうとしてくるのは、今年はこのマキだけだ。ありがたいねえ。
マキは『かなり変わり者』と評価されてる娘だ。服も持ち物もセンスは良く、メイクキメキメの顔はまあ可愛い方だ。しかし本人は否定しているものの、言動はかなりユニークである。そこがね、今から渡されるものに対して少し不安を感じる。
「あったあった、はいこれ。おっちゃんにプレゼント!」
満面の笑みを浮かべたマキが、小さな紙袋をおれの目の前、コーヒーカップの横に置いた。
「お、おう。ありがとう」
うーーん! とりあえず礼は言ってみたものの。こんなことを言ってはなんだが、袋が小さい。手のひらに乗るくらいのミニマムサイズだ。100円玉を入れるとしたらちょうどこれくらいが良い、て大きさだ。中身について、益々不安が高まる。
「えーーと、開けてみていいかな」
マキに聞くと、明るくいいよいいよーー、と返事。良いものだよ、という自信があるんだろうか。
小さな紙袋に封をしているハート形のシールを丁寧に
しばらくマジマジとその物体を眺めたあと、おれの口をついて出た言葉は。
「なにこれ」
「はああ!? なにこれって、逆になに!」
ニコやかだったマキの表情が
手のひらの上にあるのはシャツのボタンくらいのサイズの、金色の昔のお金っぽい形の物体だ。ビニールで包装してあり、中に一緒に入っている紙には『福銭』と書いてある。金運上昇のお守りみたいなもんか。
「おっちゃん、お金大好きやろ? そやからウチが一生懸命探してきたんよ!」
「あ、そう」
「だから、あそうてなに! あーーお前、安そうなもん寄越しやがって、て顔してるなっ。高いバッグのお返しがコレかて顔してやがんなっ」
マキの大きな声で、そばを通りかけていたカップルがギョッとしてこちらを見た。
「そんな顔してないだろ、思ってないって、そんなこと」
「嘘つけっ。お前ねえ、プレゼントを見た目や値段で判断すんのか? 大事なのは、それに込められてる気持ち、贈る心なんだからねっ。そこを汲み取らないと、ちゃんと!」
なんか10以上年下の娘から説教食らっている。
「はい。おっしゃる通りです」
「ほんならもう一回、あからさまにガッカリした顔してゴメンなさい、ありがとうて言いなさい!」
ありがとうなんて、無理に言うもんじゃないだろう。と思ったのが顔に出たようで、マキは益々不機嫌になる。
「何年生きてんだよ、まったく! 『ありがとう』と『ごめんなさい』がちゃんと言えないのは、ダメダメ人間だよ? ちゃんとしようよ、そういうとこ」
仕方なくマキに頭を下げ、ごめんなさい、そしてありがとうございます嬉しいです、と言い直す。
そのあとしばらく彼女からの説教が続き。ようやく解放されてから2人分のデザートとお茶代を払い、マキを自宅そばまで車で送って行ったのだった。
それから4日ほど経って。おれはふと思い立ち、ネットでマキがくれたものについて調べてみた。どうせネット通販で買ったもんだろうし、と思って検索したら、しばらくして見つかった。で、その結果を見て驚いたのなんのって!!
「15万円……だとう……!!?」
手元にある実物とネット上の写真を見比べると、間違いなく同一のものだ。
『大事なのは、それに込められてる気持ち、贈る心なんだからねっ』
マキのセリフが頭の中でクッキリと再現される。
彼女はツレから
おれは大急ぎで、彼女に丁寧過ぎるほど丁寧なお礼のLINEメッセージを送った。ありったけの感謝を込めてね。