第1話 旅路に咲いていた花
文字数 2,449文字
あのねぇ、今日のためにノートとペンを新しく買ったのを忘れたのかしら?
あー、そうだったね。
たしか、取材許可が下りた日の放課後にのりかに買い物付き合ってもらったっけ。
わざわざ迎えに来てあげたのよ。
ちなみに、杏美のお母様からは部屋に入る許可を得たし、どうせラジオ局があるところを調べていないだろうと思って道案内をしてあげようと思ったのだしね。
杏美は遅刻の多さと授業態度の悪さが学園一(いち)っていう、あってはならない最低最悪の記録を未だに更新し続けている最低最悪の生徒だというのに、そんな人を安心して野放しにはできないわね。
せっかくですし、偉大なる遅刻回数をあなたのご家族にも聞こえるように言ってさしあげましょうか?
そんなぁ・・・。
だって、それは学校が勝手に言っていることでしょ?
わたしはちゃんと学校に来ているのだから問題なしでしょ!
学校に来ていても登校時刻に間に合っていないのだから、遅刻になるのです!
いやいや、間に合っているしね!
生徒会や教育指導の教師がちゃんと見ていないだけだよ!
正門か西門からちゃんと入らないと登校したことにならないのよ、わたしたちの学園では。
それで、あなたは正門の塀を誰にも見つからないようによじ登っているでしょうが。
だって、面倒じゃん、生徒会とか風紀委員とか教師とかにわざわざ捕まりに行って、どこも悪くない服装をいちいちチェックされるのなんて。
それこそ、遅刻者を増やす原因だよ。
・・・てか、どうしてわたしがあそこを使っているのがバレたんだ!?
バレない方が不思議よ。
だって、あそこは小さい体なら植木で隠せても、あなたは文字通りの『頭隠して尻隠さず』だったわよ。
・・・ま、まぁ、遅刻回数はともかく、わたしと一緒にラジオ局に行くんだよね。
杏美、紀佳を自室から強引に追い出し、勢いよくドアを閉める。
(部屋のドア越しで)10分でも、電車の時間がギリギリの方よ。
分かったよー、仕方ないなぁ・・・。
(のりかが説教しに来ていなければ、既に家を出ていられたのに・・・。)
杏美は朝食の牛乳を一気に飲み、それ以外をトーストに挟み込んで口に咥えたまま外へと駆け出して行った。
・・・あ、わたし、社会見学先のラジオ局の場所が分からないんだったわ。
(※上と同じ状況)
そうだろうと思って、わたしがラジオ局の場所を調べておいたわよ。
わーい、ありがとう!
さすが、のりかだよねー!
(※先と同じ状況)
ちょっと、トーストを口に咥えたまま抱き着こうとしないでよ!
あ、うん、ごめんごめん。
(そう言って、トーストを少しずつ口に入れ始める)
一昨日に確認したけど、一応改めて言っておくわね。
場所はKM《ケーエム》ラジオっていう小さなローカルラジオ局よ。
まぁ、ローカルラジオ局だから、社会見学の許可も簡単に下りたのかもしれないけれどね。
KMラジオ、ね・・・。
まずはいつも通りで、SA駅に行くの?
(※トーストを3分の1程度食べている状態で口に咥えたまま)
そうよ。
そこからはKI駅まで行って、そこでKA線からMS線に乗り換えてME駅まで行くのよ。
あー、学園駅じゃ降りないんだ・・・。
というか、ここからKI駅までだと、快速でも十分に間に合ったんじゃないの?
(※トーストを半分くらい食べたまま咥えている)
それはちょっと前までの話よ。
その様子だと、駅の構内に貼ってあった「ダイヤ改正のお知らせ」を読んでいないわね?
それは移動がてらに話すわ。
ここで説明していると時間に間に合わなくなるからね。
杏美と紀佳は急いでSA駅に向かい、ME駅までの料金を払って電車に乗った。
電車にはギリギリ間に合った。
SA駅からKI駅の間では、紀佳はダイヤ改正の件を長々と話す羽目になっていた。
杏美が車窓の風景を楽しんでいたためであった。
なお、ここで杏美に紀佳の話がちゃんと伝わったのかは不明。
KI駅で二人は降りてから、KA線からMS線へと乗り換えてME駅へ。
その間は、杏美は相変わらず車窓の風景を楽しんでおり、紀佳は黙々と読書をしていた。
杏美が指をさしたのは、道路脇に咲いていた一輪の小さな花。
昔は四つ葉のクローバー並によく見かけていたけど、今ではあまり見かけなくなったんだよねー。
だから、「幸せの黄色い花」とか「ハピネスフラワー」とか「幸せの黄色いフラワー」とかの俗称で呼ばれているんだよねー。
今となっては人々から忘れ去られた花の名前ね・・・。
たしか、「アキタンポポ(漢字表記では秋蒲公英)」というちゃんとした名前があったはずよ。
まぁ、秋にタンポポが咲くことはほとんどありえないから、珍しいのは当たり前のことだけれどね。
のりか、これはきっといいことがあるっていうことだよね!
わたしたち、「幸せの黄色い花」を見つけちゃったんだもん!
うーん、まぁ・・・、そうよね。
きっと、いいことがあるわよ。
ちょっと、そっちは逆方向よ。
わたしがちゃんと道案内をしてあげるから、ついてきなさい。
そ、そうだった。わたしはラジオ局がどこにあるのかを知らなかったんだ。
こうして、二人は社会見学先となるKMラジオへと向かったのであった・・・。
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