ヤドナシ

文字数 3,519文字

ここはヤドナシさんの執筆スペース!
悪戯すると連れてかれますよ!
ねえ、小夜さん……あなたのことで流れてる噂ってホント?
休み時間、槻木さんが急に話しかけてきた。今までほとんどしゃべったことのない人だ。どうして急に声をかけてきたんだろう……正直、今は頭がいっぱいであまり誰かと話したい気分じゃない。

yomogi

えっ……噂って?
あなたの魔人能力のこと。
ああ……ホント……だよ。
今まさに、そのことで頭を悩ませてるから……。

yomogi

そうなんだ……じゃあ、「小夜さんが耳にした嘘は現実になる」っていうの、本当なんだね?
そう、私は自分が耳にした嘘を現実にしてしまう能力を持っている。そのせいで、私の周りでは自分のついた嘘が現実になって不幸になった人がたくさんいる。だからみんな、私の前では嘘をつかないようにしている。それどころか、人によっては私が近くにいるときは絶対に話そうとしない……それなのに……何で慶太くんはあんなこと言ったんだろう。

yomogi

実はさ、さっき小夜さんと慶太くんが話している会話、聞こえてきちゃったんだ……。
えっ……?
噂が本当なら、小夜さんって自分の能力コントロールできないんだよね? あの会話で慶太くんが言ってたこと、本気じゃないと思うけど……嘘だったら現実になっちゃうんだよね?
そう、もし慶太くんの言ってたことが現実になったら……私は今日の放課後、指を無くしてしまう。

yomogi

小夜の指ってさ、本当に綺麗だよな……爪も小さくてピンク色してるし、俺と全然違う。
えっ、指……? 急にどうしたの……慶太くんって指フェチ?
う〜ん……フェチかぁ……フェチかどうかはよく分からないけど、小夜の指なら切り取って持って帰りたいくらい綺麗だなって思う。
こわっ、何か怪しいよ……それ。
なあ、この指もらってもいい?
嫌だよ……真顔で言ったら怖いからホント止めて。そういう冗談平気で言うから、みんなに変人扱いされるんだよ。
俺は変人扱いされても別に構わないけど……じゃあ、何したらくれる?
えっ、まだ続けるの?
小夜が「いい」って言うまで続ける。
勘弁してよ……じゃあ、数学の小テスト、私に勝ってたらいいよ
ほんと? 勝ってたらもらっていいの?
いいよ、慶太くんに数学負けるとは思えないし……。
じゃあ、せーので見せ合おうぜ?
えっ、無理でしょ? ほんとにやるの?
おう、いくよ。せーの!
わわっ……って……ええ! 94点……負けた……。
やったー! 初めて勝った!
慶太くん……これ自慢したかっただけでしょ?
この前赤点だったから油断したろ?
じゃ、約束どおり……明日もらいにくるから、これでチョキンって。
ちょっ……ハサミ出さないで! 冗談でも怖いし、私にそんなこと言ったら取り返しが……!
約束だぜ! どうせ明日も放課後部室にいるんだろ? 5時ぴったりに来るから、待ってろよ〜。
ちょっ、慶太くん!!
普段の彼なら……いや、私のことを知る人なら誰だって、そんなことは言わないはずだった。私の前で言った嘘は、現実になると困るようなことだけが本当に起きてしまうのだから……彼が本気でなくても、「私の指をもらいにくる」と言った言葉は本当になる。明日の5時ぴったりに……。

yomogi

彼の言った嘘、本当になったら困るよね? なのにどうして、さっきからじっとしてるの?
どうしようもないから……私はそういう魔人なの。
小夜さんって、本当は誰かが不幸になるの好きじゃないでしょ? 正直、私は不幸になってほしい人ってけっこういるんだけど……それなのに、何で「本当になったら困る嘘だけが現実になる」なんて力を持つようになったのか、前から興味あったの。
小さい頃、おばあちゃんに「嘘をつくな」「嘘をつけば不幸になる」って言われ続けて、ずっとそれを信じてたの……誰も不幸にならないように、「嘘をついた人の嘘が本当になるように」って願ったんだけど……「嘘が本当になるから嘘をつく」ような人が出たら困るから、こんな能力になったんだと思う。
そっか……それで自分の首も締めちゃったんだ……今更、私が「小夜さんの指は切られても生えてくる」なんて嘘ついても、そんな都合のいい嘘は現実にならないんだよね?
もしかして……助けようとしてくれてる?
慶太くんがどんなつもりであんなこと言ったのか分からないけど……さすがにこんなことほっといたらやばいでしょ?
槻木さん……。
それでさ、名案があるんだけど?
名案?
そっ……小夜さんが聞いちゃった嘘って、どうがんばっても絶対現実になるんだよね?
うん……今まで友達のついた嘘が現実になっちゃうの、何度も止めようとしたけど……一度も避けられなかったよ。
じゃあさ、いっそ「そういう現実」を作っちゃえばいいんじゃないかな?
えっ、現実を……作る?
慶太くんは、明日の5時に部室で小夜さんの指をもらいにくるんだよね? 小夜さんが部室に行くのを止めようとしても、自分の意思に関係なくそれは起きちゃうから無理でしょ?
うん……。
それなら、最初から「小夜さんの指が切り落とされる」っていう現実を用意しとけばいいんじゃないかな? 慶太くんが「小夜さんの指をもらった」って認識すれば、その嘘は現実になるんでしょ?
もしかして……。
そう、「小夜さんの(作った)指」を用意しとくの。確か、小夜さん美術部で化学室の隣が部室だったよね? あそこに人体模型があったの、覚えてる?
確かにあるけど……まさか人体模型の指を切り取って、私の指の代わりにするの? さすがにバレるよ……。
大丈夫、私けっこうフェイク作るの得意なんだ。小夜さんの指、私が作ってあげる。うまく慶太くんが「小夜さんの指をもらった」って思えるように……。
そんなの……うまくいくかな?
人体模型の指を切っちゃうのも、それを私の指のフェイクにするのも、ちょっと怖いし……。
指、なくなっていいの?
……嫌。
明日、5時より少し早く部室に来て。私が用意しといた指、小夜さんの手にうまくつけてあげるから。
あっ、ありがとう……。
どうして彼女はそんなこと思いつくんだろう……今までほとんど話したことないのに、なぜここまでやってくれるんだろう……。

yomogi

そう思いながら、私は次の日を迎えた。言われたとおり、5時よりも少し早く部室に来る。どうあがいても、5時には必ず私の足は部室に向かってしまうのだ。慶太くんに指を切り取られるために……だったら、彼女の言った方法を試すくらい、なんともない。人体模型の指をつけるなんて、ちょっと嫌だったけど……。

yomogi

ほら、ちゃんと出来たわよ。よくできてるでしょ?
すごい……本当に人間の指みたい。怖いくらいリアル……。
まあね、人体模型の指をそのままつけてもすぐバレるから、私が特殊メイクでそう見せてるの。ほら、指出して。
うっ、うん……。
こうやって指を折って……その上にフェイクの指をつなげて……折った方の指は袖とメイクで隠して……。
まっ、間に合う?
カツン……カツン……足音がきこえてきた。嫌にひびく。きっと彼の音だ。

yomogi

大丈夫、間に合わせる。ほらっ、これで何とか!
ガラガラ……

yomogi

あっ……。
あっ……。
ポトンッ……

yomogi

指が……落ちてしまった。慶太くんが急に開けたドアに驚いて、槻木さんの作ってくれた指が、間抜けな音を立てて床に転がる。

yomogi

あれ〜なんで槻木もいるんだー?
それに……その床に落ちてるの、何だ?
こっ、これは……。
もうだめだ……もうどうにもならない。

yomogi

……わっ、私の指……。
…………。
長い沈黙の後、彼は言った。

yomogi

違うよ、小夜の指はそれじゃない。
キーンコーンカーンコーン……
5時ピッタリ、それを知らせる学校の鐘がなる。

yomogi

何それ? 槻木が作ったの?
お前、面白いな。
そっ……そう?
あっ、悪いけど俺、ちょっと忘れ物したわ! 悪いけど小夜、先に部活始めててくれる? すぐ取ってくるから。
えっ……?
そう言うと、彼はすぐ、どこかへ忘れ物を取りに行ってしまった……私の指をもらいにきたなんて、すっかり忘れているみたいに……。

yomogi

たっ、助かったの……?
…………。
指、私のじゃないって言ってたのに……どうして……でも、助かったん……だよね?
ねえ、小夜さんの能力って、「嘘を現実にする」んだよね?
えっ、そうだけど……。
じゃあ……最初から、本気だったらどうなるの? 嘘じゃなかったら?
えっ……?
カツン、カツン……彼が小走りで戻って来る足音が聞こえる。

yomogi

私ね、慶太くんのこと……実は好きだったんだ。
でもね……慶太くんの赤い糸は、小夜さんにつながってたんだ〜
えっ……何を言ってるんだろう? 

yomogi

だからね、私……あなたと慶太くんの赤い糸、切っちゃった。
ガラガラっと、慶太くんがドアを開ける。

yomogi

ごめんな、待たせたよな?
そう言った彼の右手には、大きなハサミが握られていた。

yomogi

そこまでです!!

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登場人物紹介

【名前】多々羅 小夜(たたら さよ)


【性別】女性


厳しい祖母に「嘘はつくな」「嘘をつけば不幸になる」と言われ続けて育った女の子。小さい頃は周りで嘘をつく人を見る度に、その人は不幸になると信じきっていた。ある時、友達に嘘をつかれたことを知り、その子が不幸にならないよう、嘘が現実になることを祈ってしまった。その日を境に、彼女は魔人として覚醒した。


【能力名】リアルメーカー


耳にした嘘が現実になる能力。嘘なら何でも現実になるわけではなく、嘘をついた人が「現実になると困ること」だけが現実になってしまう。彼女自身は、能力の発動をコントロールできない。


【戦う動機】「誰も不幸にしたくないから」


【作者】ヤドナシ

名前:槻木イノリ(つきのき いのり)


性別:女


特殊能力:『赭い糸結んだ去りし日の遊戯』

他人の「好きなひと」と結ばれている「赤い糸」を視覚化出来る能力。

ただし、槻木イノリの能力の本領は「その赤い糸を切り取るとその恋が冷めてしまう。むしろ、恋していた相手に憎しみを抱いてしまう」という素晴らしい程に他人に不幸を与えること。

逆に、赤い糸を結ぶことで恋愛成就させることも出来るが、本人の性格上ほとんどしないようだ。


設定:

あっさりすっぱりクール系。

他人の恋路を邪魔してしまうことを気に病んでいる……ように見えて、他人の不幸は蜜の味タイプ。リア充爆発しろ!

幼い頃にこっぴどくフラれたことを未だに根に持っていて、ただひたすらにリア充を憎んでいる。

怖がりな面もあるが、幽霊だろうが怪異だろうがどのような存在だろうがリア充は許さない。


相手を倒したい動機:リア充爆発しろ!


作者:星野えにし

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