第1話

文字数 1,999文字

 作品だけがアートではない。深澤さんは、英語が得意な人と絵が得意な人がお金のやり取りなしに教え合う『とくいの銀行』というアート活動をしている。これで百万円の賞金を得た。人間のコミュニケーションや営みがアートなら、私もなにかやってみたいと思った。私は三十年以上ユーモアについて考察してきた。「ライフワークをアートに活かせないか?」そこで私は『アーティストをダジャレで紹介するアート』というパフォーマンスアートを考えた。
 パフォーマンスアートは鴨江アートセンターの集まりで知った。
1928年 鴨江には(28)ライトの流れ警察署
 鴨江アートセンターの建物は建築家、ライトの思想を踏まえたもので文化的価値がある。建て壊す予定だったが保存運動が起こった。ここのレジデンスアーティストをダジャレで紹介したくなった。
 露木さんは、中国で書道の勉強をしてきた。東京芸大の研究生だ。『三国志』などの漢文を書で展示していた。伸びやかな書体だ。また、アート作品として『水を得た魚、魚を得た水』という生きた魚と死んだ魚をアート作品として展示していた。
 露木さんのスライドでのアート作品の紹介には、10人くらい来た。中国で先人の書をひたすら模写して自分のものにしていく。露木さんのアート作品に関するこだわりで2つのことが印象に残った。
 1つ目。露木さんは小学生の時に観たオノ・ヨーコの作品に衝撃を受けた。生のリンゴを置いておくだけの展示でリンゴが腐っていくのをじっと観るだけの展示だ。「これが作品になるのか!?」と驚いたのだ。
 2つ目。アートというと個性とかその人らしさが言われるが、中国の場合、先人の模写とか積み重ねることが大切なのだ。古来、中国には著名な書家がいた。六朝時代(222~589年)の書家、王羲之。中唐時代(766年~835年)の政治家、顔真卿。いろんな時代の積み重ね、中国四千年の蓄積がアートにも表れるのだ。
 撮影の前に軽く打ち合わせ。
「観察力についての面白い話をします。パンダのしっぽは白でしょうか黒でしょうか?」
「白ですか?」
「そう、白です。お(尾)も白い話です」
「アハハハ!」
露木さんはちょっとしたことで笑う笑顔にあふれる素敵な女性だ。「この人なら笑わせられる」と確信した。「ただ、途中で笑わせるよりも最後に笑わせられるといいな」とイメージできた。撮影はネタバレしないように一発撮りにする。私が携帯電話で撮影しながらインタビューする。
 露木さんと軽く会話をした後で撮影開始。小さな白い部屋の中にはきれいに磨かれた金魚鉢に透明な水に金魚やどじょうなど淡水魚か泳いでいる。干物なども模様になって作品化されている。
「露木春那さん、中国はどうでしたか?」「はい、すごく素敵な街でした。私は書道を学ぶために中国で1年間学びました」「『中国の美は直感ではなく積み重ねるもの』というのが大変気になりました」「はい、今生きている私たちは、自分が全部1からつくったものではなく、私たちの生まれる前の先人たちの積み重ねたものを知らず知らずに学んでいるわけじゃない。だから、書道では先人達を学んでいました」「書道とこの作品『水を得た魚、魚を得た水』の関係は?」「私はタイトルを膨らませて着想します。タイトルで説明に彩りを添えます。物作りの最初に文字があるのは書道と関連しているかな」「ダジャレで考えたのは、中国語『ネイヨウメイヨウ』『内容がないよう』」「よくご存知で」「中国人から聞きました」「私もよく日本語の中でほめられるとそんなことない、『ネイヨウメイヨウ』とふざけます」「ぼくのネタてす」「内容があるようがいいですね」「小学生の子と謎かけを考えました『バスケットボールとかけて金魚ととく、そのこころは、サンポはだめでしょう』トラベリングと散歩てす」「あっ、(指を指す)このどじょうも、ある朝来たら、外に出ていて干上がっていて死んでいました。散歩はダメでしたね」「サンポはダメてすね。」露木さんはインタビュー中にピカピカに水槽を磨くためにあちこち動き回っていた。私が露木さんのそばに行き、乾いたどじょうを接写しに行くと露木さんは別の水槽に移動した。「それでは『さよう奈良の大仏が歩きました』」「アハハハ」露木さんは狙い通りに笑った。
 黒板とキッチンは駐車場ビルにあるコミュニティーセンターだ。街に人が来れば駐車場も潤うので、まちづくりやアート系や普通の人が来る。隣に予備校があり、アート教育の学部を目指すジン君にぜひ見せたいと思った。受験のストレスの解消にもなるだろう。
 ジン君は映像を観ると露木さんの魅力に引き込まれた。かわいらしく品の良さがにじみ出ている。露木さんが狙い通り最後に笑ったのを観て、ジン君はつぶやいた。
「露木さん、優しいなぁ。笑ってくれるから」
まぁ、この作品に出てくれるから優しいことは間違いないが…

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