第1話 【三題噺その四】噂の山の神

文字数 1,999文字

「ふ~~ん。あんな所に神様ねぇ~~~…。」

あのときの僕は軽い気持ちだった。

いくつかのTwitterに
【山の神様に助けられた】
という投稿に興味を持った僕は、そのコンテンツの真実を確かめようと思い立ったのだ。そこは僕の知る山。でも、神は朝早くに現れるようで、僕が住む町からでは朝の一番電車で行かないと会えないのかもとやや不安に。。。

翌日の朝、僕の好奇心は睡魔に勝利していた。

電車に乗り1時間半をかけて着いた場所は何も無いへんぴな村。

駅を下りると目の前に小さな山が1つ。情報ではそこに神がいるらしく、僕は急いだ。

山に入ると朝霜がひんやりとして気持ちいい。

久しぶりに上る山の道は整理されていたけど、やっぱりキツイ。。。

頂上に着くと僕は山の神を目撃。。。

あのとき、山の神はスコップを持ち鼻歌を歌いながら大きな穴を掘っていた。

50歳は過ぎているような神の背中を見ているうちに、滑稽というか異常に近い光景のせいで僕の背筋は凍りついた。

(まさか…人を埋める気じゃ?)

疑惑がわいている僕に神は気づいた。
神は何も言わずに険しい顔つきになりながら僕をジッとにらみ続ける。

そして、

「何しに来た!」

と、まるで威嚇するかのような一声を投げる神。

正直、僕は身体が硬直して声が出なかった。いや、それどころか
(ヤバイ!殺されるっ!!)
と、直感したんだ。

けど、神が放った次の言葉はそれを否定するものだった。

「ふ~~~~ん。お前さんは自殺願望じゃなさそうだな。」

キョトン。。。死語になっているけど、このワードはまさにあのときの僕の心境そのもの。
狐につままれたような感覚になり自然に声が出せたのを思い出す。僕の身体は一気に力が抜けていたんだ。

「あの、いったいここで何を???」

「ああ、俺か?…俺は…人の命を守っている。」

「人の命って?その穴でですか?」

「そうだ。この穴でだ。」


(あれ?チョット待てよ…。この人どこかで会った気がするんだけど…??まさかね…)
「あの、どうやってこの穴で人を助けるんですか?」

「落とし穴だ。この崖に飛び込む前にここで落とす!」

(^_^;)\(・_・) オイオイ…と、
突っ込みたくなったけど、そこはなんとかこらえ、どうしてそんなことをしているのか少し突っ込んで聞いてみたところ…

「14年前、俺の息子がここで足を滑らせてこの崖から落ちて命を落としちまった。それからというもの、ここで自ら命を落とす者が後を絶たなくなっちまったんだ。悔しいじゃねぇか!タケは落としたくて落としたわけじゃねぇのによ!ここを自殺の名所なんかにしちまったらそれこそタケが浮かばれねぇよ。。。」

?…神は確かにタケと言った。
もし、そのタケが僕の知っているタケだとしたら…。

僕は直ぐさま問いただした。

「…おじさん、もしかして小学生の時に転校していった狩野[かのう]君のお父さん!?」

「ん?…あんたは…」

悲しいことに僕の直感は当たっていた。。

あれは小学4年生が終わろうとしていた梅が散り始めた頃だった。
幼稚園の頃から気の弱い僕をいじめっ子から守ってくれていたタケが突然転校してしまったのは。。。

あのときは、何も告げずに去ったタケを恨んだこともあった。

…けど、友達だと思っていた僕は毎日泣いていたんだ。
どうして何も連絡してくれないの?
どうして僕と一緒にいてくれなかったの?
…と…。

!?…おじさんは14年前と言っていた…
まさか…タケは引っ越してすぐに亡くなった???


皮肉と言えば皮肉…嫌な推測ほど当たるものはないようで、おじさんの話しによれば僕の推理は当たっていた。

何故だろう?次第に僕の胸の奥が熱くなり、僕は嗚咽を堪えきれない。。。

そんな僕の姿を見ていたおじさんは、

「タケのためにありがとう。だがな、その涙を流し終えたら、生きろよ。タケの分まで精一杯いきてくれよなっ。」

と、目を潤ませながら僕にその思いを寄せていた。

しばらくすると、おじさんは独り言のように僕に話しかけ続けていたんだ。

「この崖から飛び込むにはこの道を通らなければならなくてな、
それで…この穴を掘っているというわけだ。
これまでに17人だ。俺が落とした奴らは。
ここに落ちた奴らはすぐに助けを求めたりしない。
何故かわかるか?
…この穴の中で寝転ぶと見えるのさ。
あの青空が。
見ているうちに思うんだろうな。
…ああ…バカみたいだな…って。
そこで俺が手を差し伸べてやるんだ。
『ドッキリ大成功っ!!!』…ってな。。。
どうだ?バカみたいだろ?」

「…プッ…あっはっはっはっ」

「そうだ、そうやってみんな笑う。それでいいんだ。」



おじさんの話しを聞いていた僕には分かったことがある。

僕だけの正義の味方、幼なじみのタケはまだおじさんの中で生きているって。

もしかしたら、身体を失ったとしても魂は永遠なのかもしれない。

そして、また身体を借りて生まれ変われるなら、

タケ、もう一度、友達になってくれるよね?    

【完結】





















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