第1話

文字数 3,391文字

【青い鳥プロット大賞】応募作品
題名:メイキング・ア・ストーリー


(起)
 以前は真っ当な社会人として働いてはいたものの、フリーターに成り下がり2年が経つ主人公の竹田真太郎(28)。会社を辞めた当初こそは、社会のしがらみから解放され自由な時間を謳歌していたのだが、そんな自由な時間にも退屈さを感じ始めていた。元々、漫画を読むことが趣味だった真太郎だったが、2年という月日の中でありとあらゆるジャンルの漫画を読破してしまい、持て余す時間が増えてしまっていたのだ。
 そんな時、新たな時間を潰すための趣味を探そうと某動画投稿サイトを見漁っていたところ、ゲーム実況者がレトロゲームをプレイしているのを目にする。このことをキッカケにゲームに興味を持つこととなった。


(承)
 すっかりゲームにハマった真太郎。ある日、新しいソフトを購入しようと、行きつけの中古ゲーム屋を訪れた。すると、「ちょっと身近な人生ゲーム」という「某有名ボードゲーム」をモチーフにしたかの様な懐かしい響きのタイトルに惹かれ、このゲームソフトを購入することを決める。しかしこのゲームの実態は、「留まったマスの結果が、ゲームに参加したプレイヤーの現実に反映されてしまう謎のゲーム」だった。


(転)
 早速自分の名前を登録しプレイし始める真太郎。様々な留まったマスの結果が真太郎の現実に反映されて行く。当初は立て続けに起こる「留まったマスの結果と、現実とのリンク」に戸惑う真太郎であったが、出た目のマスの通り、徐々に自分自身の人生が好転していくことを実感し、このゲームの存在を認めるようになる。中でも、「知人が増える」というマスの結果から、新しく知り合った「漫画家の玉野さん」が偶然にも同じアパートの住人だったこともあり、彼女の元でアシスタントとして働く事となった。元々の漫画好きが高じてか、退屈さを感じていた自分の人生が満足感で満ちていく事となる。
 しかし一方で、このゲーム開始時に何の気なしに参加させていた自分以外のプレイヤーであった、隣の部屋に住む「隣人のミヨコ」の人生は転落の一途を辿り、ついには失踪し、警察沙汰にまで発展してしまう。その事実を大家と一緒に調査に来た警察官から伝えられるが、同時に、真太郎の住むアパートはここ数年で何人かが失踪事件に巻き込まれているという衝撃の事実を警察から聞かされる。そんな事実に驚きながらも、「ミヨコが失踪したのは自分が彼女をゲームに参加させたせいだ・・・」と真太郎は自分を責める。
 ところが、そんな真太郎の前に失踪していたはずのミヨコが突如姿を現す。だが現れたミヨコは、「ちょっと身近な人生ゲーム」の影響で自分を酷い目に遭わせていた「彼氏のシンジ」を殺して来た後だったのだ。「ちょっと身近な人生ゲームで出たマスの影響」で、真太郎は過去に一度ミヨコをシンジから間接的に助けていた事があり、ミヨコは真太郎に執着心にも似た好意を抱いていたのだ。精神が不安定なミヨコは真太郎に心変わりし、自分の物にしようとスタンガンで真太郎を気絶させ、拉致・監禁する。


(結)
 と、ここで物語がバッドエンドで終わるかの様に思わせる展開を装うが、まだ終わらない。実は裏では、この「ちょっと身近な人生ゲーム」に幾重にも絡む人物達が、真太郎を「1つのオモチャ」として弄んでいたに過ぎなかったのだ。
 まず、この「ちょっと身近な人生ゲーム」を売っていた中古ゲーム屋の店長。彼は自分自身も全く同じ「ちょっと身近な人生ゲーム」をもう1つ所持していたのだ。真太郎に売ったソフトは予備の物であり、自分自身がプレイする際のプレイヤー設定でも「客の名前」を設定し、その客の人生を弄ぶことを喜びにしていた。今回の彼のターゲットになった客がたまたま「竹田真太郎」だったのだ。職業柄、客の身分証明書を確認することは容易であり、これを利用して、このゲームのプレイヤー設定に必要な「本名」と「顔」の2点の情報を得ていたのだ。失踪していたミヨコが突如真太郎の前に現れ、真太郎を拉致・監禁したのも、この店長がたまたま出した「マスの目の結果」に過ぎなかったのだ。


*以下が「ちょっと身近な人生ゲーム」の説明書に記載されている注意事項と制約である。
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*注意事項と制約
・このゲームの効用は非常に強力です。ゲームがどんな方向に進むのかはランダムに決まります。
・参加させるプレイヤーはしっかりと吟味された上でお決めになることを推奨致します。
・設定するプレイヤーは1人~4人まで自由に選択できます。本ゲームの購入者様自身の参加/不参加は自由です。
・設定されたプレイヤーは「ゲームオーバー(バッドエンド)」の表示が出るまでプレイを続けることが出来ます。いつゲームオーバーの表示が出るかは完全なランダムとなります。
・一度ゲームを開始すると設定したプレイヤー全てがゲームオーバーを迎えるまで次のマッチを行うことはできません。
・設定するプレイヤーの選択は、その人物の名前と顔を認識していれば問題なく登録できます。名前と顔の二つを認識していない人物を設定した場合、その人物に対するゲームの効力は無効となります。
・本ゲームの購入者様が設定されたプレイヤーと、他の購入者様が設定されたプレイヤーが同一人物で重複した場合、先にルーレットを回した側の結果が優先され反映されます。
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 そして、幾度となく「ちょっと身近な人生ゲーム」を購入した客の人生を弄んできた店長だが、何度も遊ぶには被害に遭った客からゲームソフトを回収しなくてはならない。その手段として警察とつるんでいたのだった。そう、真太郎の元に「ミヨコ失踪」の件で訪れた警察官だ。彼は店長が新しい〈オモチャ〉で遊び終わる度にソフトを回収し、その「礼」として自分自身も「ちょっと身近な人生ゲーム」をプレイして他人の人生を弄んでいたのだ。警察官という職業柄、何かと理由を付けてゲームオーバーを迎えた被害者の家に上がり込み、ソフトを回収するのは容易な事である。
 
 更にどんでん返しが続く。実は「このゲームが存在する理由」・「被害に遭った真太郎とミヨコ」・「ゲーム屋の店長」・「警察官」の全ては、「漫画家の玉野さん」が考案したシナリオの元に進行していた〈只の物語〉に過ぎなかったのだ。

【彼女の手で描かれる漫画は全てが現実化する】

 彼女は売れない漫画家で、現在連載中の作品(少女漫画)も連載の打ち切りが決まっていた。担当編集者から、「今度はジャンルを180度変えてミステリーものを描いてくれ」と言われており、これまでの作歴も、〈サスペンス〉→〈少女漫画〉という歴があり、今度は〈ミステリー物〉に向けた作品を制作中であったのだ。
 今回の試作品も、「試しに〈ボードゲームをテーマに、出たマスの通りに人生が進んじゃう主人公〉という設定。最終的にメンヘラ女に拉致られて監禁オチ。そして実はこのゲームには中古ゲーム屋の店長も一枚噛んでいた。そしてこの店長も仲間の警察官と仲間割れした挙句、最終的には銃で撃たれて死亡」という大まかな設定で次回作に向けて描かれていた漫画の試作品に過ぎなかったのだ。
 彼女の目的は「最高の漫画家になる」という、あくまで本人にとっては〈純粋〉なもの。そのためであれば自分が観察したい対象がどうなっても構わない、罪悪感すら感じないというサイコパスな気質を持ち合わせていた。何より、リアルなネタを参考にしたいと、「近隣の住人にキャラを割り振り真近で観察すれば、作品として最高のものが生まれる」という揺るがない信念を持っている。ここ数年で発生していたというアパートの住人の失踪事件も、この玉野さんがサスペンスものの作品を連載中に発生していた事件に他ならなかったのだ。
 自身が最高の漫画家になるためだったら〈使える‘物’〉はとことん使っていく。あくなき向上心。今回の〈試作品〉も、「こんな設定じゃダメだぁ~、私センスなさ過ぎぃぃ・・・」と、気持ちを切り替え次の試作品に取り掛かり始める。
 そんな〈純粋〉な彼女の心が織りなすストーリー。それが〈メイキング・ア・ストーリー〉。


終わり。
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