四季刻歌

文字数 1,490文字

 1800年初頭の春……私は命を絶つ……。
 
 
 ……もう終わりにしよう。
 100年間よく生きた……。
 もう、悔いはない。
 目の前にはどこまでも続くような海が広がっていた。
 私は足を進める。
 その足取りには一切の迷いはない。
 むしろ希望に満ち溢れていた。
 
「何やってるの!そっちは危ないぞ!」
 
 後ろからのこの一言によって私は一瞬足を止めた。
 後ろに振り返ると珍しく、髪が青色の少年が立っていた。
 恐らく十歳と言ったところだろうか……。
 
 私はすぐに振り向き直し、広い広い海に足を踏み入れる。
 さすがに春なだけあって少し冷たい。
 それでも私は足を進めた。
 
「あと、少しで会えるよ……母上」
 
 上を見上げると青い空が広がっていた。
 まるで私のことを祝福してくれているみたいに……。
 
「だから!危ないって!」
 
 少しの干渉に浸っていると、後ろから強い力で引き返された。
 そう、あの少年に……
 
「はっ……はっ」
 
 それほど本気で引っぱったのだろうか、少年は、息を切らしている。
 それを私は無表情で見つめる。
 
「何……やってるんだよ。波に飲まれて死ぬところだったぞ!」
 
 息を切らしながら私に怒鳴ってきた。
 
「別に……死ぬつもりだったから問題ないけど」
 
 本当だ……この男に死ぬのを邪魔されたのだ。
 
「何言ってるんだよ!その年齢で死ぬとかはやすぎるだろ!この世に生きたくても生きれない人間だっているんだぞ!」
 
「そんなの……綺麗事じゃん。人間いつか死ぬんだ……本当に……いつか死ねると思ってた」
 
 そんなことを口に出していると涙が出てきた。
 
「……まだ名前を聞いてなかったな。俺はハル。桂ハルだ。十一歳。よろしく」

 何かを察したのか、少年は話題を変えてきた。
 
「……シキ。久留米シキ。百歳」
 
 私は涙が出てくる目を塞ぎながら言った。
 
「ひゃ、百歳!?[#「!?」は縦中横]は?どういうこと?何かの冗談か!?[#「!?」は縦中横]」
 
 驚くのも無理はない何故なら私の見た目は完全に、十歳前後。
 この少年と同い年ぐらいだからだ。
 
「冗談じゃない……私……私は、不老不死……」

 そう、この不老不死なんて要らないものが私を狂わせた。
 
「もう……目の前で死んでいく人を見たくない……お母さんも……お父さんも……友達もみんな……みんな、死んだ!
 みんなの体は時を刻む事に成長し、そして衰退していく……。私の体は……私の中の時計は止まったまま!
 もう……やだよ……」
 
 思っていたことを全部吐き出した。
 あの日……布団の上で衰退していく母、それを弱い体で看病している父。
 そんな中、何も出来ない自分嫌になった。
 これが今日死のうと思った原因だ。
 もう……人が死ぬのを見たくない。
 
「…………」
 
「…………」
 
 二人の中に沈黙が走った。
 
「……これで満足でしょ。生きる希望も意味もない人生なんていらないよ……死なせて……お願い」
 
 泣きながら私は少年を見る。
 
「……ダメだ。僕だって目の前で人な死ぬのを見たくない」
 
「だから!」
 
「……生きる意味になる」
 
 私が口を開こうとすると弱々しい声で少年は口を開いた。
 
「……え?」
 
「……僕が生きる意味になる!僕は君を一人にしない!」
 
 泣きながら少年は私の肩を揺らしてきた。
 
「ふふっ……何言ってるの……所詮、十一歳で」
 
 涙を拭って私は少しだけど笑った。
 笑ったのは一体何年ぶりだろう。
 今まで人生に絶望してきたから笑うなんて感情忘れてたな……。
 
「いいよ……私の生きる意味になってみせてよ」
 
「あぁ。なってやるよ。シキの生きる意味に……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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