第1話

文字数 905文字

夜の闇が広がっている。

夜空には月や無数の星々が輝いているが、地上にその光は届かず、夜の闇の中だ。

まるで、世界に俺しかいないみたいだ。

誰もいない町を歩く。昼間とは全く違う姿の町に、好奇心が刺激される。

見慣れた通りも、通いなれた通学路も、行きつけの喫茶店も、全てが新鮮な景色に映る。

空気が澄んでいる。

人がいないからだろうか?それとも、俺の気分が高揚しているからだろうか?

まあ、その両方だろう。

身体が軽い。今なら、空も飛べそうだ。

俺は少し足に力を入れて駆けると、段差を踏み台に、右足で力強く地面を蹴り上げて飛ぶ。

夜空を切って上昇する。心地いい風と気持ちいい浮遊感が俺の身体を包む。

このまま、夜空に浮かぶあの月までも飛んでいきたい。

しかし、やがて勢いを落として下降、地面に着地する。

さすがに、無理だよな。

苦笑いをしながら、ふと、見上げた満月の月を見て気づく。

そうか、夜は明るいんだ。

こうして、誰もいない街道を一人で歩いていると、ふと、考える時がある。

いま、俺は幸せなのだろうか?

確かに、毎日が楽しくないといえば嘘になる。

学校に行って、笑いながら友人とバカやって、家に帰って漫画を読んだりゲームをする。

しかし、幸せなのかと聞かれれば、分からない。

なぜだろう?日常に不満な部分があるからだろうか?

いや、誰だって多少の不満はあるだろう。

答えは、簡単なことだった。至極当然のことだったんだ。

俺が、漫然とした、中身のない人生を送ってきたからだ。

自分から動くことをせず、いつも周りに引っ張られてきた。

どこまでも中途半端で、流されてきた。

いまにはじめた生き方じゃない。

ずっと昔からそうだった。

そんな生き方をしてたんじゃあ、分からないはずだ。

だって、幸せになろうと努力すらしていないのだから、当然だ。

きっと、見つけるのは大変だろう。

なかなか見つからないのだろう。

でも、そんなものを探そうと、俺は決めた。

しかし、時間は不可逆的に流れていく。

あっという間に春が過ぎ、夏が来て、秋になった。

焦っていた。

いまだに俺は宙ぶらりんで、周りはどんどん進んでいく。

そして、そんな状況に焦って上手く進めずに、立ち止まる。

そう、空回りばかりしていたんだ。
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