俺だよ俺……

文字数 1,191文字

『ねえ、何で週刊誌なんかで、殺人犯が子供だと実名出さないの?』
 俺は、東京の出版社に就職した従兄弟にLINEでそう聞いた。
『いや……あくまで噂レベルの話なんだけどさ……実名報道しようとした雑誌も過去に有ったけど、毎回のように発売後に回収騷ぎになるらしいんだよ』
『どうゆ〜事だよ?』
『その「実名」が何故か、必ず、原稿とは違う名前になっちまうそうなんだよ。誤植なんかで』
『なんだよ、それ?』
『だから、あくまで噂。しかも、その名前は、何故か毎回同じだってさ。別の出版社の雑誌であろうとさ』
『わけわかんね〜よ』
『で、ここまで来ると嘘松にしか思えねえけどさ、どっかの大学の民俗学者か何かが、1990年代以降に実名報道をやった雑誌をほぼ全部、集めてて……その学者が言うには、何故か毎回誤植するその名前は「忌み名」だって言うんだよ』
『何? それ? 何かのラノベの設定?』
『ああ、その名前って、どう見ても普通の人間の名前なのに、江戸時代の国学者が書いた本の下書きの中に有るらしいんだよ。何でも、日本の妖怪の親玉の名前だそうだ』
『ちょっと待ってよ。わけわかんね〜よ』
『神隠しにあった子供から聞き取った話の中に出て来た名前らしいんだけど、実際に本になった時には別の名前に置き換えられてたってさ』
『ばかばかしいなあ。でも、このSNS時代に、殺人犯の名前がバレない訳ないよな〜。ほら、ウチの市内で起きた殺人事件の犯人も、俺と同じ高校のG本U三郎って奴みたいだよ』
 えっ?
 俺は、自分が送ったメッセージを何度も見直した。
『おい……待て……その名前、何で知ってる?』
『ああ、間違えた。本当はG本U三郎って書こうとしたつもりが、G本U三郎なんて知らない名前になってた、どうなってんだ?』
 おい……まただ。「E田S志」って打ったつもりなのに……何でだ?
『何か、変だぞ。おい、ふざけてんじゃないなら、もう、この話はやめだ』
 どうなってんだ?
 ものは試しだ……。
『×市内で起きた小学生殺人事件の犯人は○高校の……』
 twitterにそう書きこんでみた。
『G本U三郎って奴だ』
 おい、俺は、ちゃんと「E田S志」って打った筈だぞ。
 念の為、twitterで「G本U三郎」を検索。
 書かれた時期はバラバラなのに……似たようなtweetが山程引っ掛かった。
『話題になってるあの事件の犯人は近所のG本U三郎って奴だ』
『例の殺人事件の犯人は、俺と同じ学校のG本U三郎』
『何でマスゴミは、あの事件の犯人の実名の「G本U三郎」を報道しない?』
 今度はGoogleで同じ名前を検索……。
 嘘だろ……。
 俺が生まれる前の事件も含めて……色んな事件の未成年の容疑者の実名として「G本U三郎」が出てきた……。
 ほとんどは……根拠が有るかどうかも判んない情報みたいだけど……。
「お……おい……誰だよ、G本U三郎って?」
「俺だよ、俺。呼んだか?」
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