第1話

文字数 2,728文字

不思議なの景色、それはキク科の花が添えてあり、わたしを拝めて、線香の匂いがする部屋に見覚えのある方々が泣くのを我慢しているんだが、わたしはその涙ぐむ親族に思うのである。
「このまま起きたら怒られないだろうか。」これはただの幽体離脱だ。そして今までで一番イタズラのしがいがあった。
そんな稚拙なことを真剣に考えていた。
そんなわたしの小さい娘が言った。
「母さんのタンスに10万円が隠してあったよ。」
「ひとみ、こんなのもういらないよ----。昭恵は帰ってこない。」
「おかーさーん!」
わたし昭恵はひとみが泣いているのを見てすぐに自分の身体に戻ろうとすると夫はこうぬかした。

「保険金大切にして使うからな!昭恵。」
夫は一瞬、にやついたので、わたしは少し様子を見た。
「1億も金が手に入るらしいぜ。複雑な気持ちだろうな、旦那は!」
「馬鹿聞こえるだろ!」
ヒソヒソしない噂が耳に入る。まるで生きた心地がしない。夫の笑いがとまらないのか?泣いてるようにも聞こえるその声は不信な気持ちにしやがった。
憂いが憎しみに変わる頃に後ろからわたしによる金をせがむ奴らがおし寄せる------かのように思えた。それは夫の同僚だった。
「また飲みにいこうや。ママのことなんか無理に思う必要もないから。」
今がその言葉が意味深に聞こえた昭恵は夫のうつむきざまのセリフに結婚したことを後悔した。
「そうだな--みんなありがとう。この金はパアーッと使おう。もう忘れちまおう。」
わたしは用済みなのだろうか?みんな嬉しそうに笑って見えている。
だがひとみは泣いている。この子のために生きてやろうと思い、身体に戻り始めようとする。その時お経が聞こえ、煩悩に響く言葉はわたしの死者蘇生という奇跡の身技を阻害する。
頭が痛い。
いろんな意味で苦しんでる自分が嫌になる。

思えば亭主関白だった夫はロクにひとみに世話をやかなく、遊びにいくことも少なかった。死にぎわにそう思うのも夫がズルがしこいからだ。
きっと死んでよかったと思っているいやもう死んだと思われているのだった。
でもこのまま死ぬには悔しい。
「許せない」
その時おばあちゃんの声がした。
「考えてみなさいね昭恵---人が死ぬとは気持ちのいいもんじゃないばい。生きてみんしゃい。生きてればいいことがあるさ。」おばあちゃんはそっと抱きしめてくれた気がした。

「おばあちゃん!行かないで---。」
一番会いたい人だったのですがりつきたかったが、身体が魂を呼んだのだ。
おばあちゃんがそう仕向けた。
棺桶がゴトゴトなった時、わたしは
声をあげて棺桶からおきるとみんな叫んでびっくらこいている。もちろん死亡確認がされたわたしに皆さん絶句した。
みんなが驚くなか、夫が涙目にうつらうつら近ずいて、みんながにげる中わたしを抱きしめて泣き叫んだ。
「昭恵えええ!---昭恵ええ!生きているのか!?」
そのとき、暖かく冷えきったわたしに夫の涙がこぼれ落ちた。
「おかーさーん!生きてんだったら早く起きてよ。」
ひとみはにやつけば、手で目をこすっている。
親族のほとんどが逃げたなか、ふたりだけ、わたしを見て続けていた。
「わたしを愛してくれてるの?」

そういうと抱きしめながら夫が頷いた。
「バカ野郎----俺より先に死んでいいわけないじゃねーか。はははは!」
みんなが落ち着いて様子を見に来たときおそるおそる涙を拭いながら、そのムードにかけよると胴上げをされてはしゃいでいた、みんなウソの様に笑っている。夫が本当に笑った。
「10万円は宴会としてこの打ち上げに使います。」
げ------
一億円がパーだった。(そうだ--わたしなんか本当は死んだ方が---よかったんじゃないか)と思うとおばあちゃんの声がする。

「ええ事あったな。昭恵。生きてたらええことあるさかいに--」

「おばあちゃん-----------」
おばあちゃんは天使だ。

わたしは今、ビールを浴びるように呑んで笑い、喋っている。そして平和だ。そのあとおばあちゃんにありがとうを伝えにいった。その墓のそばで泣いていた。
嬉し泣きだ。
「なんで泣いてるの?。」
わたしは弱かった。
許せない気持ちはどこかへ飛んでしまっていた。ひとみはおばあちゃんの写真にに拝んでるわたしを見て、なんで人が死ぬか聞いてきてきながら不安がる。わたしはそれに答えた。

「人間は-------------------死ぬ--けど。わたしはもう自分が死んだ時のみんなの顔は見たくない、けれどひとみのためにもう一度それを見てみる事を誓うね。その時ありがとうって言ってね。」

「?」

「わたしより先に死ぬなってことよ。」
ひとみは不思議そうに昭恵が笑っているのにぐずつく。

「死ぬなんて言わないでよ------------。」
だんまりした空気に昭恵は拝んだ。死んでしまって見てくれている母へ、ひとみも真似をして一緒に拝む。祈りは届くのだろうか?

****

キク科の花の匂い、線香の煙、夫が先にいったところへわたしもいけるだろうか?娘は自分の息子を連れてわたしを拝んでいる。
「お母さん----------------ありがとう!」
ひとみは真剣な顔をし、そしてみんな泣いていない。悲しい顔はなく、どこか清々しい。わたしも今ばあちゃんになったのだが祖母の様にやさしいおばあちゃんになれただろうか?その答えはあの世で聞いてみよう。人の死、人の不幸は蜜の味らしいしと土に還った。

あのおばあちゃんがにっこりして待っていた。あの世は人口増加で、日本より狭くて困っているという。おばあちゃんが私をあのとき追い返したわけだ。そしてすぐにわたしのあとを追うかのように。娘のひとみが死にかけた時、そっと抱きしめてあげると返っていった。
「あの子にもわたしの気持ち届いたかな?」
おばあちゃんはそれを見て言った。
「お前さんもいい人間になったんだね、人が死にかけた時、側に駆け寄るのは大切な相手だけだよ。」

「----------------------おばあちゃんはわたしにとっていい人なんだね。ありがとう。」
「------前に死にかけた時側にいたのは私だったか?
ありがとうと言われてもお前さんのいるところはここではなか、夫が待っとるばい。」
「ありがとう---」
ありがとうはいい言葉だが万能すぎる言葉なばかりに大切な想いをおばあちゃんに伝えられずにいた。その事を想うと夫の夢をみて、けむりのように昭恵は夫に帰省した。
おばあちゃんは「大切な人」はそばにいてる事を知っている。





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