02.左腕
文字数 2,720文字
君入 蒼介は弟の『君入 宗太郎
静かだなと思っていると、或る音が聞こえてきます。
遠くから電車の通過する音、踏切の音、駅のアナウンスの音が聞こえてきます。
近くに駅は無いはずなのにこれはどういうことだろうと不思議に思います。
カシャッ。
君入はカーテンを開け、窓の外を見てみました。
外はすでに真っ暗です。
「君入~、君入の左腕をお求めの方は当駅でお降りください」
アナウンスがハッキリが聞こえ、「えっ!?」と思った途端、ふと視界の隅に何かが浮かんでいるのを見付けました。
何かと思って見てみると、見慣れた腕が浮いています。
君入が近付くと、それは自分の腕のように見えます。
自分の左腕を見てみると無くなっていました。
君入が驚いていると、空中に浮かんでいた左腕は窓をスッと擦り抜けました。どこかに向かって暗闇の中を進んでいきます。
君入は腰を抜かしてベタンッと床に座り込みました。
しかしこのままではいけないと思い、左腕を追うことにしました。訳も分からずただただ自分の腕を走って追います。
すでに日が落ちており辺りは真っ暗です。
君入は闇雲に走りながら、無意識に踏切の音が聞こえる方向に向かいました。
甲斐田が机に向かって漫画作業をしていると、微かに何かが聞こえてきました。
甲斐田が耳を澄ませると、それは電車の通過する音や踏切の音、駅のアナウンスの音です。周りは鳥の鳴き声なども聞こえず驚くほど静かな中、アナウンスだけが聞こえます。
甲斐田はそのアナウンスに耳を傾けました。
「甲斐田~、甲斐田の左腕をお求めの方は当駅でお降りください」
甲斐田が異変に気付き周りを見てみると、何やら腕らしきものが宙に浮いています。
何だこれはと目を凝らして見てみると、自分の左腕のように見えます。
甲斐田は自分の腕を確認しました。
血も出ておらず痛みもないのに、自分の腕が無くなっていました。それはまるで腕がポロリと取れたようでした。
甲斐田が宙の腕に手を伸ばそうとすると、腕が動き出し窓を擦り抜け、深い闇の中をどこかに向かって飛んで行ってしまいました。
甲斐田は咄嗟に机の上にあったスマートフォンを手に取りました。そして、自分の左腕を追って夜の闇の中を駆けていきました。
君入と甲斐田がそれぞれ夜の中を駆けていくと、見たことのない駅に着きました。
改札口のところで知らない男性と鉢合わせしました。お互いに見てみると、左腕がありません。
君入は腕を追いかけるのに必死で、目の前の男を無視して改札へと向かいます。左腕が改札の向こうへ入っていくのを見て追っていきました。
甲斐田は、もしや君入の向かう方向に自分の腕もあるのではないかと思い、その後を追いました。
あなたたちは腕がホームに停まっていた電車の中に入っていくのを目撃しました。
ホーム中程まで走って追いかけましたが、目の前で電車のドアが閉まり、そのまま走り出してしまいました。
君入は息を整えながら、振り返りました。
自分の後ろを走ってきた人物にも左腕が無いことを確認しました。
その男性も自分と同じく自分の腕が電車で行ってしまったことに落胆しているようです。
君入と甲斐田は、お互いまったく違う県にいたのになぜかこの駅で鉢合わせしたことを知ってしまいました。
君入は急いで改札の中に入ってしまったので見ていませんでしたが、甲斐田は改札口に「駅の案内図」があったことを思い出しました。
君入が周りを見てみても、時刻表や電光掲示板などは見当たりません。機械化されたものが見当たらない古い駅だなと思いました。
君入がホームを見渡すとすぐ近くに売店があり、その先にはトイレもあります。
この駅には構内踏切があり、2本の線路を挟んで向かい側にもホームがあります。しかし、そこには「ものすごく大きな赤い物体」があります。
状況が読み込めない君入は、その場に体操座りをしてしまいました。
甲斐田がスマートフォンで今の時間を確認してみると、21:30 でした。腕を追って部屋を飛び出る際に時間を確認したときには 21:00 でした。
甲斐田は駅の案内図のほうへ向かいました。