第1話

文字数 2,018文字

それは約一年前、中学校3年生の2月後半の話だ。僕にはA君という幼稚園からずっと一緒で、家が近いためよく遊んでいた親友がいた。しかし僕たちは志望校が違い、嬉しいことではあるが二人とも受験に受かったので、高校からは違う学校に通うことになってしまった。
そこで僕は、今までの感謝を込めてAの大好きな駄菓子でお菓子のリュックサックを作ろうと思い、たくさんの友達に一緒に作らないかと声をかけた。すると、ほとんどの人が「協力するよ!」と言ってくれた中、B君だけは断固として協力しようとしなかった。なぜそんなにも非協力的なのか気になり友達に聞いてみたところ、小学校の頃に二人は同じサッカークラブに通っていたのに、ある時なんの知らせもなくAがそのクラブをやめたからという理由らしい。それだけ⁈と思ったが、人手も足りそうだったし、まあ無理に協力してもらう必要はなかったので、B君をしつこく誘うことはしなかった。
そして中学校卒業の三月二十三日に向け二週間前から駄菓子を買い漁り、放課後や休み時間に時間を見つけては駄菓子のリュックサックを組み立てていった。僕たちの中学校はお菓子の持ち込みが禁止だったので、先生にバレないようにしながら毎日作るのはとても大変だった。先生が気になって作業に集中できず全然作業が進まなかったので、一時はやっぱりお菓子を渡すだけでいいのではないかという案も出ていたが、Aに喜んで欲しかったので僕たちは諦めずに予定していた駄菓子のリュックサックを作ることにした。そして卒業式前日の放課後、もう太陽が沈みかけてきた頃にリュックサックが完成した時の達成感は言葉では言い表せないほどのものだった。みんな飛んで喜び、何度もハイタッチを交わした。僕は僕で、明日Aにこれを渡すことを考えるとにやけが止まらなかった。
そして迎えた卒業式、僕たちはリュックサックを卒業式の後に渡そうと思っていたので、とりあえずロッカーの中に入れたままにしておいた。
卒業式の間もずっとそのことだけを考えていたので、隣に座っていた友達に「大丈夫?」と何度も声をかけられた。どうやらずっと頰が緩んでいたらしい。
二時間後、長ーく感じた卒業式がやっと終わりを迎え、協力してくれた友達と一足先に教室へ戻り、ロッカーから完成した駄菓子のリュックサックを取り出そうとしたところ、それが見当たらない。もう一度自分のロッカーか確認する。間違いなくそこは自分のロッカーだった。誰かが移動させたのかと思い、友達に聞いてみたが、誰も知らない。僕は冷や汗が止まらなかった。もしかして先生にバレたか?だとしたら職員室にあるはずだ。そう思い、職員室へ向かおうとしたその時、教室から学校では聞きなれない音が聞こえた気がした。
「ビリビリビリ、サクッ」
瞬間、最悪な予感が僕の脳裏をよぎった。(誰かが駄菓子を食べているのか?)と。
そうでないことを信じ教室を覗いてみると、そこには薄暗い教室の中、駄菓子でできたリュックサックを机におき、駄菓子を口へ運んでいるBの姿があった。
すぐに状況を読み込むことはできなかった。Bは何を食べているんだ?駄菓子だ。ではその駄菓子はどこから持ってきた?僕たちが二週間かけて作った駄菓子のリュックサックからだ!そう理解した時、僕の目から涙がこぼれ落ちていた。僕は駄菓子のリュックサックを作る時Bも誘ったのだからそれがAのために作られたものだと知らないはずがない。念のため「どうしてBがその駄菓子を食べてるの?」と聞いた。そしてBのこの一言で悲しみは怒りへと変わった。
「いや、腹減ったから。ってか何泣いてんだよ、お前も食うか?」と。
我を失った僕はBに殴りかかろうとしたが、周りの友達に止められた。むかついて、「お前らAのために作ったプレゼント台無しになってよくそんな冷静でいられるな!」と言って振り向いたその時、僕は自分の頭に血が上っていたことを自覚した。僕の暴走を制御してた友達は皆涙ぐんでいたのだ。そんなの当たり前だ。Aのために頑張ってきたのは僕だけではないのだから。昨日あんなにも喜んでいたのはAのためのプレゼントを作り終えることができて嬉しかったからじゃないか。
なんとか怒りを堪え、暴力的にならないでいる彼らのことを考えると、僕も冷静にならなきゃなと思い、「学校終わったらみんなでパーティやろう!」と口にはしたが、内心穏やかではなかった。
その後も出来るだけAには何も悟られないように接しながら、ホームルームと写真撮影をこなしていったが、やはり協力してくれた友達たちの顔には隠しきれない悲しさの色が見えた。僕も周りからはそんな風に見えていたのだろうか?
そしていざ解散となった時、Aが近くにいないことを確認してからみんなが思っているであろう気持ちを代弁して僕はBにこう告げた、
「お前だけは許さない。」









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