タモリが釣れたときの話

文字数 900文字

あれは大学生の頃だった。
何年か振りに実家へ帰省した僕は、特にすることもなく暇をもて余していた。
家にいても退屈なので、久しぶりに昔遊んだ場所でも見に行こうとぶらぶら散歩をすることにした。
町中を歩くと色々な発見がある。
家族でたまに行っていたレストランが取り壊され駐車場になっていたり、逆に活気を失っていた商店街はあの手この手で活気を取り戻していたりもした。
商店街を通り抜けるとフワッと潮風が鼻腔を抜ける。その海のにおいに誘われるように、僕は堤防へ足を運んだ。

「ここだけは変わらないな」

堤防に立つと大きな海が広がっており、その姿だけは幼い頃に見た景色と何もかわっていなかった。
遥か向こうの水平線に船が一隻見える以外は青々とした海。
僕は持ってきていた釣竿を取り出し特に期待もせず糸を垂らしてみた。

「あの頃もよくボウズで帰ってたっけ」



しばらく待つと意外にも浮きが沈んだ。
慌てて糸を巻き上げるとタモを用意し一気に引き上げた。

『タモリ』が釣れた。
針はタモリのサングラスに引っ掛かっており今にも外れそうだったので急いでタモで受け止める。
タモの中のタモリはピチピチと跳ねていた。
天然のタモリを釣ったのは初めてのことだったので、大慌てで海辺の食堂へ持っていくと、とても驚かれた。

「この辺じゃあ天然のタモリなんて最近見なかったんだけどなぁ。」

そう興奮気味に言いながら、大将はまな板の上のタモリを捌き始めた。
普段捌く側のタモリが捌かれる姿は初めて見た。
身を傷つけないようにサングラスを外していく。中からつぶらな瞳があらわれる。テレビに出ているときにはまずお目にかかれない代物だ。

「やっぱり天然物は輝きが違うな」

大将が嬉しそうに言うので僕も嬉しくなった。
殻を剥いていくと、ボキャブラが露になった。大将は慣れた手つきでボキャブラだけ取り出していく。
最後にタモリの生臭さをとるために、トリビアの泉に小一時間浸けておけば『タモリの活〆』の完成である。

「毎年タモリをいただいているけど、やはり天然は身の弾力が格段に違うな」

そういって白いご飯といっしょにかきこむ。
活〆はもちろん、煮てもよし焼いてもよしのタモリはお昼(ご飯)の人気者だ。
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