第1話

文字数 3,559文字

今までで3回。
不良にからまれた回数の話。

不良との遭遇、最初は被害を受けた。
2回目は少しだけ被害を受けた。
3回目は何も被害を受けなかった。
×、△、〇。
失敗、ちょい失敗、成功。

★☆★☆★
1回目は中学3年生のとき。
A君とB君と私の3人は、カラオケを終えて店から出たところだった。駅のそばのカラオケ歌広場を後にする。

駅ちかくの雑踏。
向かいから来たブレザーの二人組にいきなり肩を組まれた。
「オメエら、今こっち見てただろ!」
年上、高校生の不良二人組。
私たち3人は、駅の裏にある駐車場へと連れていかれた。

「後でもう一人来るから。ソイツ、さっき調子こいたヤツ見つけたからそっち行ってて」
高校生の二人組はまず、自分たちにはもう一人連れがいることを告げてきた。
その後は、お決まりのようなやりとり。

「オメーラ、ドコチュー?」
「〇〇中学……です」
「アッソ。ジャ、オサイフダシテミヨーカ」
「……はい」

A君と私は財布を出した。
が、B君は財布を出さない。

高校生「オメーも出せよ!」
B君「いや、あの、財布持ってなくて」
高校生「は?マジかよふざけんなよ!金ねえのかよ!」
B君「今はこれしか――」

B君はそう言って、2枚の10円玉をポケットから出した。
B君がお金を持っていないのは本当だった。金がないのに一緒にカラオケに来たB君、さっきまで歌広場で熱唱していた彼はA君にお金を借りてカラオケを楽しんでいた。

B君の10円玉2枚が不良に奪われた。
続いてA君のお財布チェック。
A君は5千円ちかく持っていて、高校生の不良は喜んでそれを頂戴していった。
(A君、そんなに金持ってたのか……可哀想に)

いよいよ私のお財布チェック。
今でこそ、ファッション誌にある「カバン・財布の中身みせます!」なんて記事を何気なく目にしているが、そんな記事を見る前からすでに、私はお財布の中身チェックを体験していた。

ミッキーがプリントされた、二つ折りのチャック付き財布。
不良たちは遠慮せず、チャックを開いていく。

私の所持金600円が不良たちに奪われた。
そして、私だけ何故かカード類のチェックもされた。
中学生が持ってるカードなんて、たかがしれているのに。

高校生「このジー、エー、ピーってのは何?」
私「ギャップってお店のカードです」
高校生「あー、あの洋服の」
私「あの、その……CDとかビデオとかの……ギャップっていうレンタル屋さんのカードです」
高校生「ふーん」
私「…………………」
高校生「この、セラムーンってのは?」
私「地元の、〇〇中の近くにあるカラオケ屋のカードです」
高校生「ハハッ!セラムーンだって。セーラームーンじゃないんだ?」
私「……はい。セーラームーンじゃなくて、セラムーンです」

私の持っているカードは全て、不良たちの検閲を受けたが奪われたり捨てられることはなかった。
不幸中の幸いだった。

その後、高校生の二人組は私たちにタバコを勧めてきた。B君と私はタバコはいいですと断り、5千円取られたA君だけが不良のくれたタバコをふかした。タバコ代にしては、5千円は高すぎる。
高校生が最初に言っていたもう一人の不良は来ないまま、私たちは解放された。

私たち3人は、会話も少なく地元へと帰っていった。

★☆★☆★
2回目は高校1年生の春。
同じ部活の4人か5人で、Jリーグを観戦した帰り道のこと。

横浜国際総合競技場。(まだ日産スタジアムという名前になる前だった)
部活の顧問がくれたチケットで、私たちは横浜マリノスのナイター試合を見に行った。
マリノスの対戦相手は覚えていないが、たしかマリノスが勝ったと思う。

その帰り。
新横浜駅のちかく。
明らかに年上の三人組が私たちに声をかけてきた。

恥ずかしいことに、私は咄嗟に逃げようとした。
だが、他のみんなは誰一人逃げようとしていなくて、だから私はみんなのもとに戻った。

不良たち「オメーラ、どこ高?」
私たち「〇〇高校です」
不良たち「何年?」
私たち「1年です」
不良たち「ふーん。どこ中だったの?」
私たち「自分とこいつは〇〇中で、こいつは■■中。もう一人は△△中なんで、けっこうみんなバラバラなんですけど……」

不良との遭遇は、いつも学校の確認から始まる。

不良たち「〇〇中かー。XXXXっていなかった?」
私たち「すみません……ちょっとわからないです」
不良たち「あー、そっかー。お前らより、2コか3コ上とかだもんな!」
私たち「すみません」
不良たち「あの、さ。ここら辺、危ねーヤツ多いからさ」
私たち「はあ」
不良たち「いやマジ、こういう遅い時間だと、ヤベー奴ごろごろいるから!」
私たち「あ、はい」
不良たち「もし今度、ここら辺でヤベー奴にからまれたら、俺らが守ってやっからよ!」
私たち「……ありがとうございます」

じゃあな!
そう言い残して、三人組の不良は立ち去った。
からまれて最初に逃げようとしたことを恥じつつ、私たちは新横浜から帰った。
自分たちからからんできたのに、金を奪いも殴りもせず「守ってやっからよ」で終わった不良たちの検問は、未だに謎の時間だったとしか思えない。

★☆★☆★
3回目は20代半ばのころ。
これも横浜市だった。

その日は土曜日で、高校の友だちの結婚式だった。
※この友だちは、上記2回目の不良との遭遇時に一緒にいた

友だちの結婚式は15時からだった。
ちょうど会社の終日研修を受けていた私は「これから友だちの結婚式なんで」と時間に余裕を持って抜け出し、13時すぎには式場近くの桜木町駅に到着していた。

結婚式まで、まだ1時間以上ある。
野毛(のげ)というエリアを歩いてみることにした。
一人で飲めそうな店でもあればと思ったが、常連感が強いお店が多く、小心者の私はどこにも入れなかった。

すると、チェーンのカラオケ店を発見。
1時間入って、式場に行けばちょうどいいかな。
初めての一人カラオケ。
私はカラオケに入った。

「1名様でよろしいでしょうか?」
「あ、はい」

部屋に通される。
(店員さんが飲み物もってくるから、その前から一人で歌ってたら恥ずかしいな)
そんなことを気にして、少しの間よくわからない時間を過ごした。
やがて店員さんが飲み物を持ってきてくれた。レッドブルのウォッカ割り。

初めての一人カラオケ。
何だか、恥ずかしい。
(でも……歌わなきゃもったいない……よな)
そう思い、デンモクをタッチ。
曲を予約する。

1曲、2曲、3曲。
一人で歌っているうちに、だんだんノッてきた。エナジードリンク、レッドブルのウォッカ割りによる高揚もあったかもしれない。

(どうせなら、普段あまり入れられない曲を入れよう。せっかく一人なんだし)
マキシマム ザ ホルモン「What’s up people?!」※を入れる。

※マキシマム ザ ホルモン「What’s up people?!」
テレビアニメ『デスノート』のオープニング曲ではあるが、あまりキャッチ―ではなく、カラオケで歌うなら同じ『デスノート』エンディング曲の「絶望ビリー」を歌う人が多いと思う。

「What’s up people?!」のイントロが流れ始める。
そのとき、部屋のドアが開いた。
?!
(あれ? 何も注文、してないよな)

部屋に入ってきたのは、3人の若者だった。
高校生くらいの、地元の不良みたいな人たち。
横浜のヤンキーと私が見つめ合う。
カラオケの画面には「What’s up people?!」の歌詞が表示されている。

マイクを握る手に力をこめる。
握ったマイクをゆっくりと口元にもっていく。

(誰? とにかく、とにかく歌わないとっ)
3人組の不良が観客に見えた。
そんな訳はなかったが、私は一人ライブを続行することにした。
全力で。

マキシマムザ亮君の連呼。
ダイスケはんのデスボイス。
ナヲさんの(カッコ)の部分。

不良たちに見つめられながら、私は声を張りあげる。
マキシマム ザ ホルモンのメンバーを頭の中に浮かべながら、自分なりに歌声をわけて歌う。
(初めての一人カラオケが、初めてのライブになるなんて)
そんなこと思ってる余裕はない。。。

(そろそろサビだっ)
するとなぜか、不良たちが部屋から出ていった。
「What’s up Yankee?!」
Hey, hey!
Hey, hey!
私は歌うのをやめない。

――不良たちが出ていった後も、退出時間ギリギリまで私のライブは続いた。友だちの結婚式が控えていなければ、延長したいくらいだった。
野毛の不良たちが何の目的で私のカラオケルームに侵入してきたかはわからなかったが、彼らが私の前に戻ってくることはなかった。

★☆★☆★
不良と遭遇したら、マキシマムザホルモン「What’s up people?!」を熱唱すると、相手をいなくさせられる。
3回目にしてようやく取得したヤンキー撃退スキルだが、現在までそのスキルが発動する機会はまだ一度もない。
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