第3話 エピローグ
文字数 318文字
彼女は風のような人だった。名は体を表すという言葉がしっくり身に入ってくるようであった。風といってもそよ風みたいなものからは程遠い。しかしながら、どこか懐かしくも感じる形容しがたい風だ。そんな彼女はふと、私のもとへ舞い込んできては、飄々と私の手からすり抜けてどこかへ逝ってしまった。そんな彼女を私は愛することができた。そして、私はここにいない彼女の夢を引き継いだ。私の呼称も僕から私へ変わるほど随分と月日は経ってしまったが、いつまで経っても彼女は彼女のままだ。風のような彼女のことだからいつかは私の中から跡形もなく去ってしまう日が来るのかもしれない。それでも私は、姿、形のない彼女に今は必死にしがみついている。
忘れないように、と。
忘れないように、と。