第2話

文字数 795文字

美人キャスターの動きが何の前触れも無く止まった。
それだけではない。
彼女の周りの人間や足元でじゃれていた犬の動きまでピタリと止まったのだ。バックの鳥も空中で静止している。同時に布団叩きの音も、犬の鳴き声も聞こえなくなった。

― 本当に時間が止まったのか?いや、まさか…… ―

田中は閉め切っていたカーテンに飛び付き、乱暴に引き開けた。
空中でオブジェのように静止していた木の葉がスッと下に落ちる。

10秒、経ったのだ。
12時のサイレンが鳴り響き、キャスターが動き出し、 パンパン、キャンキャン、大合唱も再開した。

「いかがでしたか?」
電話の向こうから得意そうな声が聞こえた。
「嘘だ。こんな話が……」
「信じられないのも無理ありません。しかし、事実なのです。ご覧になったでしょう?先程の10秒間、テレビの向こうも時計も小川のせせらぎや海の潮騒さえ止まり、地球上で動いていたのは、あなた一人だったのです。偶然では有り得ません」




「ええっ。川や海まで……本当か?分からなかった。そうだ、もう一度、やって見せろ」

「残念ながら無料サービスは、おひとり様一回限りです。時間を止めるのには莫大な費用と手間が掛かるのです」
「うーん。そうだろうな。って、どの位するんだ?」
「はい。今ならキャンペーン中につき、事前お振込特別価格で30分が200万円と大変、お得になっております」
「ば、バカバカしい」
「そうですか。当店のご案内は、おひとり様一回限りとなっております。また、非合法なので、一般には知られておりません。もう二度とお電話いたしません。では……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
田中はチラッとテーブルの上を見た。

―これを奴に渡しても本当に、これ切りで終わるとは思えない。それよりも、この金で自分だけが動ける時間が買えるとしたら……―

田中は震える手で受話器を握り締め、とある日時を指定した。



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