第1話 地デジから脳デジへ
文字数 527文字
テレビの画面には砂嵐のような映像が流れている。男はその前に座り、画面をぼぅーと見つめていた。
「むかしアナログ波からデジタル波に替わった時もこんな感じだったのかなぁ」
三十の坂を越えようとしている痩せた男がつぶやく。
これからテレビは脳内に直接映し出される事になる。目をつぶって手元のリモコンを操作すれば頭の中全体が「テレビ」になるのだ。いわば究極の3Dテレビといえるだろう。
「しかし、それでいいんだろうか」
何せ脳の中に直接情報が送り込まれてくるのだ。健康面は勿論、何か他の事柄についても心配になる男であった。
「知らない内に俺の脳内へ何か変な情報が送られてきたり、逆に情報を取られたりする事はないのだろうか。政府は絶対安心だと言うし、評論家のほとんどは”このシステムを拒むのは変化をおそれる愚か者である”と言ってるけれど……」
男は古いテレビの電源を落とし、目をつぶって手元の「脳内テレビ用リモコン」を操作した。すると頭の中に立体的な映像が流れ出す。愛想の良い若い女性が現れ、この新しい製品の説明をはじめた。
男は最初あまりのリアリティに戸惑ったが、時間がたつにつれその映像に没頭していく。女性の姿が映し出される前に、一瞬流れた意味不明の映像の事などとうに忘れて。
「むかしアナログ波からデジタル波に替わった時もこんな感じだったのかなぁ」
三十の坂を越えようとしている痩せた男がつぶやく。
これからテレビは脳内に直接映し出される事になる。目をつぶって手元のリモコンを操作すれば頭の中全体が「テレビ」になるのだ。いわば究極の3Dテレビといえるだろう。
「しかし、それでいいんだろうか」
何せ脳の中に直接情報が送り込まれてくるのだ。健康面は勿論、何か他の事柄についても心配になる男であった。
「知らない内に俺の脳内へ何か変な情報が送られてきたり、逆に情報を取られたりする事はないのだろうか。政府は絶対安心だと言うし、評論家のほとんどは”このシステムを拒むのは変化をおそれる愚か者である”と言ってるけれど……」
男は古いテレビの電源を落とし、目をつぶって手元の「脳内テレビ用リモコン」を操作した。すると頭の中に立体的な映像が流れ出す。愛想の良い若い女性が現れ、この新しい製品の説明をはじめた。
男は最初あまりのリアリティに戸惑ったが、時間がたつにつれその映像に没頭していく。女性の姿が映し出される前に、一瞬流れた意味不明の映像の事などとうに忘れて。