第1話

文字数 637文字

 両親に「ピノキオ」と名付けられた。いわゆるキラキラネームだ。
 驚いたのは、僕の鼻も嘘をついたら少し伸びることだった。

 気がついたのは小6の時。修学旅行の夜、友達と好きな人を言い合う流れで、僕は恥ずかしくなり「いない」と言ってしまった。その時、わずかに鼻が伸びる感覚がした。
 予想は正しかった。中学に入ると嘘が増えた。テストの点数をごまかしたり、遅刻の言い訳をするたび鼻が伸びた。サッカーで相手にフェイントをかけた時にも、鼻は伸びた。罪悪感の大きさで伸び率が変わる事にも驚いた。
 2年になる頃には鼻は10cmを超えていた。人は嘘をつかないと生きていけないと悟った13歳の春だった。もはや隠すことは出来ず、そのまま登校した。友達は理解してくれ、僕は学校の人気者になった。

 高校時代になると1mを超えた鼻が役に立った。陸上部だったのだが、短距離で市の記録を1秒も塗り替えたのだ。隣の選手とは本当に「鼻の差」だった。この記録を塗り替えることは難しいだろう。

 だが大人になり、鼻が2mになると、さすがに嫌な事が増えた。陰でいじられるし、街であらゆるものにぶつかる。どうにかしないといけない。

 僕は名案を思いついた。
 改名だ!
 「ピノキオ」だから鼻が伸びるんだ、逆に「オキノピ」にしたら縮むかもしれない。僕は期待を胸に、市役所に駆け込んだ。
 改名完了。
 そして初めての遅刻。僕は実験がてら、嘘をついてみた。「電車が大幅に遅れまして……」

 その瞬間だった。


 鼻以外の部分、全てが伸びた。
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