第1話

文字数 1,440文字

 あたりに、いいかおりがしてきました。
「おとうさん、スープができたわ。でも、きょうはこれだけしかないの。ごめんなさい」
「いいんだよ。おまえに、いえのしごとや、はたけしごとまでまかせてしまって、わるいな」
 おとうさんは、ベットのうえで、せなかをまるめながら、ほんのすこしのスープをゆっくりとのみました。
「カレンのスープは、とてもおいしいよ」
「ありがとう。はやくよくなってね」
 カレンが、ちいさなはたけをたがやしていると、つよいかぜがふき、すぐちかくのもりのきがゆれました。
「むむ、いいにおいがするぞ」
 せすじがこおるような、ひくいこえがしました。そっとふりむくと、きばをむいたおおかみが、カレンのすぐうしろでどなりました。
「おい、おまえ、たべものをよこせ」
「い、いま、スープしかないわ」
「いいから、もってこい」
 カレンが、ふるえるてで、スープをわたすと、おおかみは、おとをたてていっきにのみほしました。
「うまいな。もっとないのか」おおかみは、くちのまわりをベロリとなめました。
「きょうはこれしかないの」
「あした、またくるからたくさんつくっておけ。いいな」おおかみは、めをぎらつかせていうと、もりにきえていきました。
「こまったわ。やさいがあとすこししかないのに」
 やさいは、おとうさんのスープをつくるぶんしか、のこっていませんでした。
 つぎのひ、おおかみは、なかまをなんびきもつれてやってきました。おおかみたちは、かきあつめたやさいでつくったスープにとびつき、あっというまに、のみおえてしまいました。
「うまい、うまい」おおかみたちは、おおよろこびです。
「もっと、くれ」
 ぎょろりとしためでカレンをにらみつけながら、まわりをうろつきます。
「わ、わたし、ひとりでやさいをつくっているの。おとうさんのおせわもしているし、これいじょう、あなたたちにあげられないわ」
 カレンは、ちからをこめていいました。
 おおかみたちはいくつものひかるめで、カレンをみつめました。きのうきたおおかみが、ずるり、ずるり、カレンのめのまえまで、ちかづいてきました。
 カレンは、くちをぎゅっとむすび、むねをはり、りょうてをぐっとにぎりしめました。
「わかった。それなら、わたしたちもはたけしごとをてつだおう。だから、まいにちスープをつくってくれないか」おおかみは、あたまをさげました。
「わかったわ」カレンは、そのばにへたりとすわりこみました。
 つぎのひからまいにち、おおかみたちがやってきて、カレンといっしょにはたけをたがやし、くさをとったり、やさいのせわをするようになりました。
 はたけでは、りっぱなやさいや、こむぎがとれました。はたけのばしょをふやして、もっとたくさんのたべものをつくることができるようになりました。
 カレンは、スープをたくさんつくりました。ちがうあじのスープや、とれたこむぎでパンもつくりました。
 カレンのスープやパンは、もりのどうぶつたちにも、うわさになりました。
 そして、みんなのきぼうで、すてきなおみせをひらくことになりました。おみせは、まいにちだいぎょうれつです。
 おおかみたちも、おみせをてつだいます。やさいをきったり、あじみをしたり、おおいそがしです。
 テーブルには、ゆらりゆげのあがったスープと、こんがりやけたパンがのっています。
「おとうさん、たくさんたべてね。くすりもかえたのよ。これできっとよくなるわ」
「ありがとう。カレン、いっしょにたべよう」
 カレンはにっこりほほえみました。
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