第12話 しばしの別れ
文字数 1,049文字
「でも、アイリスはケガ人が出るまでは待機じゃないの?」
「……いくら記憶が無くても解るだろう。……戦に勝つためには先に治癒士をつぶすことだ。戦場に出て負傷者に随時治癒魔法をかけながら自分の身を守るんだ。俺達以上に危険な立場なんだよ」
心底呆れたという顔のキージェ。
「治癒士が不足してるって意味は、そういうことだよ」
……軽率すぎた。
確かにそうだ。治癒士がいなくなれば負傷した者たちが戦場に戻ることが出来ない。いや、そのまま死んじゃうかもしれない……
「150年も戦だの小競り合いだのが続いて治癒士は万年不足してるし、出世をするなら強い治癒士になれって言われてるくらいさ」
そうだったの……。それなのに、私は早々に戦線離脱をして一人浮かれていた。
「私も……私もまた自警団に――」
「いや、今のエリは足手まといだ。記憶が戻ったとしても、小隊長のモデトンを殴った件はヤツが俺達を侮蔑したと立証できたとしても、帳消しにはならない」
……足手まとい。その通りすぎて反論などできない。
「アイリスは、エリが生きているだけでそれが励みになるはずだから、無理はしなくていい」
励み?
その後、アイリスが店で合流して、スモノチ料理を食べながら私たちは努めて明るく振る舞った。
明朝といっても空には星々がひしめく時間。予定通りキージェとアイリスとグランは、正規軍と共に南方征伐へと出発する。
先日の制圧戦や探索と違って、みんな結構な荷物の量だ。ノイの鞍の後ろには左右に大きなカバンが取り付けられていた。
「どうか、無事で」
何が何でも生きて帰って来て……。
「任せとけ!」
「エリは今日は探索行く?」
材料費はともかく、まずは生活費を稼ぐためには探索に行かなきゃだけど……。
「うーん……行けそうなものがあったら」
「探索組合に申請すれば数人のグループにも斡旋してもらえるから利用してみて! 僕たち、しばらく帰れそうにないからさ」
アイリスには自分の心配をして欲しいのに。
「わかった。ありがとう」
ご武運を、と送り出すなんて現代日本ではまずない挨拶だ。
もし本当のエリムレアが彼らと共にいたら……。私の心配など取るに足らないことだっただろう。
一行は遠くなり、その姿がどんどん小さくなっていく。
「おとうさぁん、かならずかえって来てねー!」
不意に、足元で小さな女の子の大きな声。
たった一人で見送りに来ていた彼女は泣き顔だ。
こんな時、いつもバッグに入れていた手作りの猫のパペットがあれば、彼女を少しでも笑顔にできたかもしれないのに。
「……いくら記憶が無くても解るだろう。……戦に勝つためには先に治癒士をつぶすことだ。戦場に出て負傷者に随時治癒魔法をかけながら自分の身を守るんだ。俺達以上に危険な立場なんだよ」
心底呆れたという顔のキージェ。
「治癒士が不足してるって意味は、そういうことだよ」
……軽率すぎた。
確かにそうだ。治癒士がいなくなれば負傷した者たちが戦場に戻ることが出来ない。いや、そのまま死んじゃうかもしれない……
「150年も戦だの小競り合いだのが続いて治癒士は万年不足してるし、出世をするなら強い治癒士になれって言われてるくらいさ」
そうだったの……。それなのに、私は早々に戦線離脱をして一人浮かれていた。
「私も……私もまた自警団に――」
「いや、今のエリは足手まといだ。記憶が戻ったとしても、小隊長のモデトンを殴った件はヤツが俺達を侮蔑したと立証できたとしても、帳消しにはならない」
……足手まとい。その通りすぎて反論などできない。
「アイリスは、エリが生きているだけでそれが励みになるはずだから、無理はしなくていい」
励み?
その後、アイリスが店で合流して、スモノチ料理を食べながら私たちは努めて明るく振る舞った。
明朝といっても空には星々がひしめく時間。予定通りキージェとアイリスとグランは、正規軍と共に南方征伐へと出発する。
先日の制圧戦や探索と違って、みんな結構な荷物の量だ。ノイの鞍の後ろには左右に大きなカバンが取り付けられていた。
「どうか、無事で」
何が何でも生きて帰って来て……。
「任せとけ!」
「エリは今日は探索行く?」
材料費はともかく、まずは生活費を稼ぐためには探索に行かなきゃだけど……。
「うーん……行けそうなものがあったら」
「探索組合に申請すれば数人のグループにも斡旋してもらえるから利用してみて! 僕たち、しばらく帰れそうにないからさ」
アイリスには自分の心配をして欲しいのに。
「わかった。ありがとう」
ご武運を、と送り出すなんて現代日本ではまずない挨拶だ。
もし本当のエリムレアが彼らと共にいたら……。私の心配など取るに足らないことだっただろう。
一行は遠くなり、その姿がどんどん小さくなっていく。
「おとうさぁん、かならずかえって来てねー!」
不意に、足元で小さな女の子の大きな声。
たった一人で見送りに来ていた彼女は泣き顔だ。
こんな時、いつもバッグに入れていた手作りの猫のパペットがあれば、彼女を少しでも笑顔にできたかもしれないのに。