第1話

文字数 1,989文字

 僕は護身術の学校の10日間初心者コースに入った。同じコースで習うのは7,8歳位の子ども5人である。子供向けのコースなので時々昔の鎧や兜を身に付けて気分を盛り上げるらしい。僕や子供たちはレコンキスタ時代、ペドロ2世のような鎧と兜をつけて剣術の稽古をすることになった。

「大きいペドロ2世が2人、小さなペドロ2世が5人、全部でえーっと」

 ラミロ2世の亡霊が喜んで僕に話しかけてくる。もちろん彼の姿が見えるのは僕だけである。

「2+5=7、全部で7人だよ」
「おー!、そうだ。全部で7人のペドロ2世がいる。奇跡のような光景だ」
「別に今から鎧を付けて稽古するだけだよ」

 僕は冷たく言った。ラミロ2世が言うような奇跡の光景とは思えない。

「いや、我々教師2人と君が1人、それから5人の子供で全部で8人だ」
「あ、そうですね。僕は自分を数えてなかったです」

 先生たちに亡霊であるラミロ2世の声は聞こえないが、僕が大きな声で話すと聞こえてしまうので、おかしな会話になってしまう。ペドロ2世の方は僕の気持ちを察して少し離れた場所にいるのだが、ラミロ2世は生涯の大部分を修道院で暮らした王様なのでこうした場面が興味津々らしい。そして自分の姿が他の人には見えていないという安心感でどんどん僕に近付いて来る。この場面に不似合いな白い豪華な王様の衣装を着て、王冠までかぶったラミロ2世ははっきり言ってかなり邪魔である。

「フェリペ君、君は剣を持つのは初めてか?」
「いえ、修道院にいた時に、友達が騎士に憧れて傭兵になりたいと言っていたので、元傭兵の護衛の人と練習したことがあります。僕は負けてばかりいました」
「そうか。まあここは傭兵の訓練所ではなく、子供のための護身術の学校だ。今日は鎧を着て動きにくいだろうから、手加減をして適当に動いてくれればよい」
「わかりました」
「さあみんな、今からレコンキスタの英雄ペドロ2世との戦いを始める。ぶつかると危ないから、みんな線の外側に出てくれ。1人ずつ順番に名前を呼ぶ」
「はーい」

 小さなペドロ2世の鎧と兜を付けた子供たちは先生に言われた通り線の外側に出て座った。でもラミロ2世の亡霊は僕の目の前にいる。

「ラミロ2世、そこにいるとぶつかって危ないから、線の外に出て欲しい」
「心配しなくても、亡霊は生きている人間とぶつかることはない」
「ぶつからなくても、僕にははっきり見えるのだから、気が散るよ」
「生きている人間の戦闘訓練を見る機会など滅多にない。私は400年近く亡霊として生きてきたがこんなことは初めてだ」
「でもそこにいると邪魔だから、線の外で見て!」
「アラゴン5代目の王ラミロ2世に対して邪魔だと言うのか!」
「そういう意味じゃなくて・・・」

 面倒なことになってしまった。今ここでラミロ2世と長々と口論するわけにはいかない。僕は助けを求めてペドロ2世の方を見た。ペドロ2世がラミロ2世に近付いてきた。

「ラミロ2世、ここよりも少し離れた場所の方が全体の動きがよくわかる。どのような動きが勝利に結びつくか、私が解説しよう」
「それはありがたい。私は戦闘というものについて全く知らない。ここでそなたの解説付きで見学できるとは・・・」
「さあ、一緒に向こうへ行こう」

 ペドロ2世の亡霊は僕の方を見て目で合図をした。僕は兜をかぶったまま、少し手を上げてお礼した。

「では今から戦いを始める。セバスチャン君、前に出なさい」

 名前を呼ばれた子が前に出て来た。






 修道院で体の大きい僕の友達や元傭兵の人と剣術の稽古をした時は負けてばかりいたが、今回の相手は子供である。鎧と兜を付けて動きにくいが、それは相手も同じだ。僕は剣を適当に振り回したが、それでも次々と子供たちに勝った。僕が勝つとラミロ2世とペドロ2世の2人は興奮して盛り上がり、先生たちも解説を入れてくれる。

「さあ、ペドロ2世はまた勝ちました。レコンキスタの英雄に勝てる子はいないのでしょうか?」

 だんだん僕も気分がよくなってきた。今までの人生で強いと言われたことは1度もない。

「最後に残ったのはマルティン君です。さあ、みんなどちらが勝つと思うかな」
「ペドロ2世!」
「マルティンは無理だよ・・・」

 マルティンと呼ばれた子と対戦することになった。彼は他の子と違って鎧を身に付けていても動きが軽い。僕はだんだん焦ってきた。剣をやたら振り回しているだけの僕に比べ、彼は僕の動きをよく見て、無駄に剣を振り回したりはしない。そして僕は首の部分を攻撃された。

「勝負あり、マルティンの勝ちだ。フェリペ、今の場合は戦場なら君は死んでいた」
「はい、僕の負けです」
「2人ともいい戦いだった。さあ兜を脱いで互いの健闘を称えよう」

 僕も相手の子も兜を脱いだ。

「フェリペ兄さん?」
「お前は・・・マルティンか?」

 彼はつい最近父さんの家で会った異母弟のマルティンだった。












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