第5話

文字数 2,208文字

ここで暮らし始めて1週間が経った。
私はここで暮らしていく上で家事をすることとなった。

タダで住まわせて飯も食わしてやるんだ。
簡単でいいから掃除くらいはしろよ、とのことだ。

てっきりこいつのことだから家事は全部やれとか言ってくるのかと思っていたので身構えていただけに拍子抜けした。

私がまだ幼いので、簡単な掃除でいいと言ったのだろう。けれど、私は前世では大人に分類される年齢だったので、掃除ならある程度のことはできる。
それに料理だって少しならできる。

前世の件については触れず、掃除も料理もできると言えば、ならやれと言われた。
まぁそうだよね。そう言われると思った。

私には二階のあの倉庫みたいな部屋を与えてくれた。リラとの相部屋だ。
自分で好きにカスタマイズしてくれ、とのことだったので遠慮なく自分が好きなように模様替えさせてもらった。

本棚は左の壁際へ持っていき、部屋にあった本を全て綺麗に並べた。
小物は要るものと要らないものに分けて…というか要るものなんてほとんどなかったけれど…要らないものはテラに託した。

花瓶と電気スタンド、小さな棚と絨毯だけ私の部屋に置いた。
2日目にはテラがベッドを木で作ってくれたので、それを本棚とは逆側の壁へ置いた。

その近くに小さな棚と花瓶、電気スタンドを置いて完成。我ながらよくあのゴミ屋敷みたいな状況からここまできれいにできたと思う。

念のためリラに部屋はこれでいいか聞けば、問題ないという風に返ってきた。
寝る時はリラも一緒にベッドで寝ることにしている。
別にベッドで横にならなくても、床に座っているだけでいいと言われたけれど、そこをゴリ押しして一緒に寝るようにしたのだ。

そんなリラは、専用の電池で動いているらしく、時々交換してあげなければいけない。
初めはテラが交換していたけれど、やり方を教えてみればすぐに覚えたので、電池切れにならないようリラ自身のタイミングで電池交換を行うようになった。

あと、リラは基本自分から動きはしない。
だから時々、私が一緒に歩くように言って手を引き家の周りを散歩したりする。

料理の食材はテラが用意するというので、初めはどんなゲテモノが出てくるのだろうと少し怯えたけれど、出てきたのは人間が食べる食材ばかりだった。

曰くテラの舌には、魔物の食より人間の食のほうが合っているそう。美食家なんだと言っていた。へー。

買い出しはいつもテラが行くので、私はまだ街へ行ったことは無い。今度連れて行ってくれるそう。

3人で暮らすのはそれなりに快適であった。
お互い殆ど干渉せず、適度な距離をもっての生活。
とてもありがたかった。

こんなに快適な暮らしをいきなり手に入れてしまったけれど良かったのだろうか。
結局、急に家に来いといったテラの目的はよくわからなかった。

というかそもそもテラ自身について分かっていることがほとんどない。

まず、人間の姿をしている理由と本当の姿はどんなものか、なんの魔物なのかを聞いてみた。
すると彼は何だっていいだろと吐き捨てて、この話は終わりだという風に二階の右の部屋、彼の部屋へ籠ってしまった。

この話題に触れられたくないような様子だったので、あれからもう聞けないでいる。

別の日には、あの日あんな森で何をしていたのか聞いてみた。
これには普通に答えてくれた。思い出の場所だから、散歩をしていたのだと。
散歩なんて縁がなさそうだったから意外。

他にも、なんで人間に紛れて生活しているのか、他の魔物と交流は無いのか、なんで一人でいるのか、リラはどんな経由でこのうちに置くことにしたのかといったことを聞いてみたけれど、何も教えてはくれなかった。

なおさら私をここに置く理由が分からなさ過ぎて怖い。

面倒臭そうに私を家へ連れてきた挙句、必要最低限のこと以外は関わってくるなとさえ言われたのだ。
人間が好きではないと。だからご飯は一緒に食べないし、テラがリビングに降りてくることはほぼなかった。

こんなの、私を太らせて食べようとしていること以外にあいつにメリットがないじゃないか。
やっぱりこの暮らしに甘えてちゃだめだ。
あいつが捕食者の目を一瞬でも見せたら、その瞬間隙をつけて逃げ出そう。

そう決意した次の日。
珍しく私の部屋へ入っていたかと思えば、今から街に行くから支度しろと言われた。

支度と言われてももうすでにパジャマから着替えているし、特に持っていくものも無いので「もう出来てる」と言えば、じゃあ行くぞといって足早に部屋を出ていった。
リラも一緒に行こうと言って手を引いて、急いで後ろを追いかける。

相変わらずこちらを気遣う様子がかけらも見えない速度で歩くあいつを、必死に追いかける。

「連れていくのは一度だけだ、自分で道を覚えとけ。あとは行きたいときに勝手に行け。」
「わ、かったから、もうちょっとゆっくり歩いてよ」
「…」

苦しそうにそういえば、無言で不服そうにスピードを少し落とした。少し、本当にほんの少しだけれど。

リラは大丈夫だろうかとみてみると、顔色一つ変わっていなかったし息だって微塵も上がっていなかった。
そりゃあそうか。ロボットなのだから。

ロボットだと頭で分かっていても、なんだか気にかけてしまう。これが姉心というものなのだろうか。

「着いたぞ。」

そうして歩いて20分もしないうちに街に着いた。
そこは、私が前世で見たことのない街で。
賑やかな市場やあふれかえるような数の人間に、少したじろいだ。
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