タルト

文字数 1,045文字

 ハスミは近所の商店街に買い物にでかけた。護衛兼監視役のオダマキにおねだりして一緒に出かけた。何でかだんだん話が進むに連れ同行する人数が増えて、不思議に思ったけど気にしない事にした。同級生や使用人の間で話題になっていた物が欲しかった。

「これ、二つ下さい」
「二つでいいの?」
「はい」
「それで足りるの」
「シツレイな!」

 差し出された茶色い、小ぶりな袋を嬉しそうに受け取る。ビオラのからかいは聞き流して。いつもはもっと店や外を見たがるのだが、今日に限って早く帰ろうと急かした。そんなハスミを不思議に思いながらも、同行者達に異議を唱えたりはしなかった。学校でクラスメイト達が話していた。

『マサゴ商店街のお菓子屋さんで売ってるタルト、本当に美味しいの』

 楽しそうに話していた。

『食べた瞬間、口の中に甘いのが広がって幸せになるの』

 あの人と一緒に食べたいなと思った。

「パパ?」

 滑りの良い音をたてながらドアを開け、部屋の主を呼んではみるが、返答はない。それでも帰るという事はせず、扉を閉めてトテトテ進む。

「パパ?」

 もう一度呼んでみるが、やはり返事はなかった。ハスミは小さく溜め息をついて定位置となった二人用のソファに座る。テーブルの上に袋を置き、横になる。ふわふわとした背もたれの柔らかい感触は、睡魔を呼んだ。





 書庫に本を戻しに行って戻って来たリンドウは目を疑った。

「……何で此処にいるのよ」

 というか、何故寝ているとは思ったけど。ハスミが来てくれる事自体は正直嬉しいので、少し頬が弛んだ。起こさないように静かに腰を下ろし、柔らかい黒髪に手を触れる。テーブルの上に置いてある袋に目を写す。

「…………」

 無言のまま手に取って中を確認、少しだけ顔を顰める。けれどもそのままテーブルの上に戻し、ハスミが起きるまで待つ事にした。





 数分後、目を覚ましたハスミはまず文句を言った。

『なんで起こしてくれなかったんですか?』
『寝顔が可愛かったから、起こすのが偲びなかった』

 なんてしれっと言われて顔を真っ赤になったけれど、何とか持ち堪えて、一緒にタルトを食べる事にした。カスタードとチョコの二種類。その時、リンドウの顔が引き攣っていたように見えたけど、気にしない事にした。だって『何でもない』って言われたし。食べながらオダマキにおねだりして彼と何故か着いてきた数人の同居人達と一緒に外出した事を話している最中、また顔を顰めて。

『……情けないわ』

 ぽつりとそんな事を呟いていたけど、ハスミには何の事か解らず首を傾げた。
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