プロット

文字数 1,753文字



古くから恋愛は学業の妨げになるとして禁止されてきた。ならば、そもそも恋愛対象と会話をできなければ恋には発展しないのではないかという考えから、遥か未来の日本、国は脳が相手を恋愛対象だと判断すると、その相手と対面すると、口が開かず会話ができなくなるチップを開発し、脳に埋め込むことを提案した。自動的に電話やSNSなどでもチップが電波を受け取って、対象の人物とのやりとりを妨害するようになっていた。
そのチップの能力を試す試験体のに選ばれたのは、国立の中高一貫校、花苑(はなぞの)学園の生徒たちであった。
花苑中学は国立の進学校で、入学時から脳に前述のチップを埋め込む。現在ならともかく、脳に何かを埋め込むことは、この時代ではサプリを飲む感覚で行われている。莫大な保護金が支払われることもあって保護者からも支持する声の方が多かった。


半年ほど経つと花苑学園の大抵の生徒は、特定の相手を前にすると喋ることができなくなった。異性との会話ができなくなった。その相手は大抵が異性であったが 同性の相手とできない者もいる。もちろん一人に限らず、複数の相手を前に喋ることができない生徒もいた。教師と喋ることのできない生徒には、指導が入ることもあった。
しかし、花苑学園で「校内生徒誰とでも喋ることのできる」生徒がいた。それは、主人公のれんげであった。れんげは、「自分はなるべくみんなと同じでありたい」と考えている少女だったため、それがコンプレックスであり、早く自分が口を開けることのできない特別な相手を見つけたいと思っていた。そんな中でれんげは「校内生徒全員が喋ることのできない」男子生徒の筏カズラと校内で出会う。きっかけは、彼のピアノを聞いたことであった。唯一カズラと会話のできるれんげは小学生の時合唱部に入部していた共通点からカズラと徐々に親交を深めていく。


ある日カズラは誰とも会話をできないため調理実習に参加できず見学をしていると知ったれんげは、彼のために作ったクッキーを持っていく。しかし、お礼を言ったカズラが突然倒れてしまう。
実はカズラは自分の父親の研究を手伝っており、脳にもう一つ「他人を自分に惚れさせることのできる」チップを埋めこんでいたのだ。
そのチップが、カズラ自身がれんげに恋愛をしたことによって誤作動を起こしてしまう。カズラを彼の家へ連れて帰り、父親のもとで慌ててチップを取り出した。父親は狼狽した様子を見せるが、れんげはそんな彼にカズラがそのチップのせいで学校で寂しがっていることを話す。父親は研究に夢中でカズラのことを考えていなかったことを悔やみ、研究を成功させた金でカズラにもっと不自由のない生活をさせたかったと項垂れるが、目をさましたカズラは今のままで十分幸せだと言う。父親は、カズラをもう二度実験台にはしないと約束する。



次の日カズラは、他の生徒と話せるようになっていた。しかしその代わりれんげと口が利けなくなった。自分のためを思って行動をしてくれるれんげに、恋をしてしまったからだ。驚きの声をあげたれんげは、自分がまだカズラと会話をできることを悟り、同じ気持ちを返せないとはっきりとカズラに言う。カズラは悲しそうに微笑んで「友情」に関連する合唱曲の伴奏を弾く。自分と友人同士でいてくれるのだと察したれんげは高校生になっても放課後、カズラと会い彼のピアノに合わせて歌うのをやめなかった。
花苑学園を卒業したれんげは、そのまま附属の大学へカズラは音楽大学へと進学した。卒業後チップを取り去った二人お互いの気持ちが違うとはっきり感じていたため手紙もSNSも交わすことはなかった。
ある日昼ご飯を友人と食べていたれんげは、友人からの合コンのしつこい誘いに辟易としていた。そんな中、テレビにカズラの姿を見かける。有名なバンドのキーボードを担当しているカズラは、自身の恋愛観についてのインタビューに自分が中学、高校と好きになった女性についてのこと、その女性が恋愛をしないこと、そういった人間も世の中にいることを知ってほしいこと、そのことによって彼女が少しでも生きやすくなることを願うと答えた。
それを見たれんげは心の中でカズラにお礼を言い、「実はね」と一緒にテレビを見ていた友人に自分の恋愛観について話し始める。
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