読漫画障害への対策

文字数 1,362文字

「長官、これが『読漫画障害』を検出する装置の試作品です」
 そう言って我が「表現の自由」庁の技術官僚は、VRゴーグル付のヘルメットを指し示した。
 若い世代が、ネットやスマホで「縦読み」式の漫画ばかり読むようになって、十数年。
 既に、古いタイプの漫画の「コマ割り」が理解出来ない若者達が出始めている。
 このままでは、日本が世界に誇る漫画文化が失われかねない。
 この由々しき事態に対し、文部科学省と我が「表現の自由」庁は共同で、日本の未来を担う子供達に「読書障害」ならぬ「読漫画障害」を矯正する為の教育を実施する事になった。
 だが、その為には、まずは「読漫画障害」の子供を見付け出さなければならない。
 その為に作られたのが、その装置だ。
「このヘルメットは脳波計か?」
「正確には脳磁計と呼ばれるモノです。いわば簡易式のMRIで脳波計よりも高い解像度で脳の活動をリアルタイムで計測出来ます」
「なるほど……」
 なるほど、良く判らん。まぁ、すごい性能の脳波計と思っていれば良いのだろう。
「VRゴーグルには漫画を表示し、視線の動きと脳の活動を元に、作者が意図した順番でコマを読んでいるかを判定するようになっています」
「ふむ。作者の意図とは違う順番でコマを読んでいたら『読漫画障害』と云う訳か……では、私が試してみていいかね?」
「はい」
 そして、技術官僚は、椅子に座った私にヘルメットを被せ、スイッチを入れ……。
「まだ、テスト中なので、起動時のログが表示されますが気にしないで下さい。漫画が表示された後は、次のページに移る場合はヘルメットの左側のスイッチを、前のページに戻る場合は右側のスイッチを押して下さい」
「ああ、判った……」
 やがて、意味不明な英文は消え……知り合いの漫画家が描いた有名な漫画が表示された。
 ネットミームと化しているコマが有るアレだ。
 私は、その漫画を読み終り……。
「おい……終ったぞ……外してくれ……。ん? どうした?」
 何故か、外からはざわめき……。
「お……おい……どうした? たしか、まだ1個目が出来たばかりの試作品だろ? 慎重に扱ってくれよ」
 ようやくヘルメットを私の頭から外した技術官僚の顔は病気にでもなったかのように真っ青で……手は震えていた。
 ふと、立ち合っているメーカーの技術者達の方を見ると、制御端末の前で、言い争いに近い激しい議論をしている。
「ちょ……長官……長官が……『読漫画障害』の可能性有りと判定されました」
「はあ?」
 1つ1つの単語の意味は瞬時に渡った。
 しかし、技術官僚が発した言葉全体の意味を理解するには……多分、分単位の時間がかかった気がする。
「おい、どう云う事だ? 私は元漫画家だぞ。いや、自分では、たまたま『表現の自由』庁の長官をやってるだけの漫画家だと思っている。そ……それなのに……」
「『SNS依存症』タイプの『読漫画障害』の可能性が高いとの結果が出ました」
「おい、待て、何だ、その『SNS依存症』タイプとは?」
「はい、中高年で自己認識が『オタク』『表現の自由の擁護者』であるような男性に多い後天性の『読漫画障害』で……漫画を読む際に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を特徴としています」
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