1.

文字数 772文字

 隣の家で飼われているウサギが、今夜も暗闇に紛れてどこかに出掛けて行く。
 奴の毛皮は白いから、完全に夜に紛れることは困難だ。今日のような満月では、なおさら目に付く。

 隣の家のウサギの白い後ろ姿を見送りながら、自分もペットとして飼われている家を抜け出してきたミニブタは、心の中で呟いた。
 ミニブタだって、薄いピンクがかった肌色をいているから、暗闇に紛れるのは難しい。ましてや、今日のような満月では。
 月明りに照らされているウサギの後ろ姿を見てひやひやしているくせに、ミニブタは自分の姿も同じくらい目立っていることはあまり気にしていない。他人のことは分かるが、自分のことはよく分からないものなのかもしれない。
 人間が知らないところで、ミニブタは自由気ままに外の世界を歩き回っていた。
 例えば、ミニブタを飼っている人間達が、ミニブタに首輪とリードを付けて、「散歩」と称してミニブタを連れていく公園にも、実は一人で行くことができる。
 また、そいつらがミニブタを一週間もペットホテルに預けて旅行に出かけたグアムやニューヨークなどにも、歩いて行って帰ってくることが出来る。
 しかも、一晩でだ。驚くべきことである。
 どうしてそんなことができるようになったのか。それは、ミニブタが自分を飼っている人間達から、旅行先で撮った写真なんかを見せられながら、こんなことを言われたのがきっかけだった。
「ほ~ら、ピーちゃん。ここはニューヨークの五番街っていうところだよ」
「グアムのビーチだよ。ピーちゃんも連れて行きたかった」
 それなら行ってやろうじゃないかと、ミニブタは考えた。
 そうしたら、意外なことに、何の苦もなくすんなりできた。
 やりたいと思ったものは何でもやってみるものだ。お陰で行きたいところに自由に行って、見たいものを見ることができると、ミニブタは思っている。


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