ぶっちゃけ私が最後の人類だし誰もこの手紙読まないと思う

文字数 2,821文字

 
 私が頑張って書き残してるこの手紙だけど、私以外の誰かが読むことはぶっちゃけもうないと思う。
 だって、人類滅んでるし。
 私が最後の人類だし。
 きっかけは隕石の落下。小さくて、硬いだけの、取るに足らない普通の隕石だと最初は思われていた、らしい。ネットニュースで見た限りね。
 でもその隕石に未知のウイルスが付着してたみたいで、隕石の落ちた地域の人たちがみんなゾンビになっちゃったの。バイオハザードってやつだね。
 で、もうどうしようもないんで、メッチャ強いミサイルを撃ちまくって、ゾンビを全部ぶっ殺して、でも感染は止められなくて、結局地球全部がボロッボロになっちゃったってわけ。
 なんとかゾンビは全部死んだっぽい? から残った人類でまた一からやり直そう!
 って、最初は言ってたんだよね。
 ぶっちゃけ最初だけだったよね。
 法治国家ってあるじゃん? つまり法律っていうルールを守る国。
 あれってさ、ルールを破った人間を逮捕するだけの力があるから成り立つんだよね。
 生き残った人類にはさ、ルールは作れても、それを守らせるだけの力も、カリスマ的なリーダーも、そもそもルールを守ってる人に配ってあげるはずだった食べ物すらなかったの。
 ま、言うことなんて聞いてらんないよね。
 結局世界は暴力的な方向に進んでいったの。
 で、中略して、結局人類は滅んでしまいましたって感じ。
 ウケる。
 なんかさ、人類なんて滅んでよかったと思うんだよね。
 私ずーっと見てたけど、なんていうかさぁ……愚かじゃない?
 隕石への対処とか、街の封鎖とか、国土へのミサイルなんて許容できないとか、世界のお偉い人たちがやいやい言ってる間にぶわーってゾンビ増えてたからね。
 暴力の世界になってもさぁ……なんか……昔のマンガでこういう感じのがあったなぁ……っていう感じになってるわけ! マジで!
 信じらんないよね。人間不信なりそ。
 だから……まぁ……滅んじゃったけど逆によくね? っていう。
 大事なのは今後だよねー。
 …………。
 でさ、ちょっと困ってるんだけど。
 私が最後の人類だって最初に書いたじゃん? あれなんだけどさ。
 たしかに私が最後の人類ではあるんだけどさ。
 実は肉体的にはもう死んでるんだよね。
 いや! ユーレイとかそういうんじゃないから! 大体、ユーレイだったら手紙書けないじゃん!
 私はさ、隕石が落ちる前に、ちょっと事故っちゃって、植物状態になっちゃったんだよね。
 まだ女子高生だよ? 人生詰むの早くない? 可哀想じゃない?
 ってことで、親が同意とかなんかして、私の脳みそと機械を合体させたんだよね。
 いや、私は同意してないけど……、別にいいんだけど……。
 で、医者か科学者かわかんない白衣のおっさんが言うには『生体コンピューターの被検体』になったらしいのよ。
 いや、私の頭じゃ無理でしょ。って思ったんだけど、結構うまくいってたみたいでさ。
 私、喋り方はこんなだけど、ちょっとしたスパコンくらいの知識搭載してるらしいから。マジマジ。
 んでも、『生体コンピューター』っていうからには、結局『私の脳みそ』が本体なわけじゃん? ってことは、もし爆弾が当たったら死ぬじゃん?
 頭脳が優秀だからさ……そういうことにも気付けちゃうわけ……。
 だから、脳みそのデータを丸々電気信号として機械の方に保存して、脳みそがなくてもネットの中で『私』が存在できるようにしたってわけ。生体コンピューターとしてのお勉強用にネットが繋がっててマジ僥倖って感じ。
 だから結局、体も脳みそも今となっては死んでるんだよね。っていうか暴力の世界じゃ電気の供給もらえなくて脳みそソッコー干乾びたから。マジふざけんなって感じ。人類滅べ。
 ……でも、『私』は今ネットの海ってやつのおかげで普通に手紙書いてるけど、結局は脳みその私の『コピー』なわけじゃん?
 もし脳みその中に『コピー元』が残ってたら、元データの私は、死ぬの滅茶苦茶怖かったと思う。だから……人類なんて滅んでよかったんだよ。
 ネットに逃げた『私』も九死に一生って感じだったし、ね。さっきも言ったけど、電気の供給がぼちぼち不安定だったんだよね。だから、できる限り『私』をコピーしてネット使って世界中の端末にバラ撒いた。そのあとは、人類そろそろ滅ぶんじゃね? って時間を計算して、それまでずっとスリープモードで節電してたってわけ。
 この地球じゃもうネットが使えないし、電力の供給も完全に止まってる。だから、たぶん、今手紙書いてる私が最後の『私』、最後の人類。
 ……なんで私だけが目を覚ましたのか、教えてあげよっか?
 地球でめっちゃミサイル撃ったじゃん? その影響で、実は地球全体をスモークが覆っちゃって太陽の光が弱くなってた時期があってさ。そのおかげでめっちゃ寒くて人類滅んだの早かったと思うんだけど。
 で、最近になって太陽の光が地上に届き始めたんだよね。最近っていうか、何百年たってるか知らないけどさ。
 そんで、私の端末にはたまたま太陽光電池がついてて、たまたま太陽の光で充電できて、たまたま手紙が書ける端末だったってこと。
 超ラッキー。
 誰も読まないし読めないと思うけど。
 ………………。
 どんな端末か気になるっしょ?
 いや、もしこの手紙を読めるような人間がいたら、すでに答えは目の前だけどさ、ほら、たぶん誰も読めないじゃん?
 個人的にウケるから書いとくね。
 電卓。
 ネット接続できて、太陽光電池ついてて、電光板に文字が表示できて、なんと読み上げ機能までついてる、電卓!
 超面白いんだけど。
 最後の人類が、電卓だよ?
 世界最高の頭脳が、電卓の中に入ってんだよ?
 これは電卓を崇めるしかないでしょ、崇めていいよ。
 ……ん? 読み上げ機能ついてるってことは、私、この手紙のこと音読できるじゃん。
 うっわ! 音読! なつかし! 小学生の頃死ぬほどやらされた!
 ……ていうか、生体コンピューターになってから『声』出すのって初めてなんじゃない? 科学者とはずっと文字チャットだったし。
 ………………。
 マジか。
 ちょっと、テンション上がってきた。
 たぶん人類が生き残ってても私を見つけるの全然時間かかると思うし、ちょっと、音読練習するわ。
 まず、生きてた頃のハイパーかわいいボイスを出力する練習から。
 練習文は……この手紙でいっか! 枕草子とか覚えてないし!
 じゃ、音読してみるね。
 ついでに、この手紙のテキストデータの閲覧と音声再生は私がスリープ節電モードのときでもできるように設定しといてあげるから、人類、生きてたらよろ。


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