第1話

文字数 2,000文字

「お前が言ったんだろ……」
俺は、カレーが食べたかったが、山下のせいでラーメン屋に来ている。

から揚げが食べたいのなら、そう言ってくれれば、定食屋に行ったというのに……

「俺は、カレーが食べたい」
と意思表示はした。

しかし、
「えー、カレーはないわ~ 俺は気分的にラーメンだわ」
と言われたので、ラーメン屋にした。

なのに、山下が食べているのは唐揚げ定食。
いや お前、ラーメンはどうした?
気分的にラーメンだったやつが急にから揚げになるのか? じゃあお前は山登りに来て、海水パンツ一丁になるのか? ならないだろ?

山下が最初から、から揚げと言っておけば、から揚げ定食もカレーもある店を探すこともできた。カレーもあってラーメンもある店を探すよりは、カレーもあってから揚げもある店を探す方が簡単だ。

行きつけの定食屋「辛子大根」
この店のから揚げは絶品だし、ボリュームもあって値段もお手頃。
しかも、から揚げカレーというもある。1つ欠点があるとしたら、麺類が一切ないということ。

だから、辛子大根に行ったら、
「あ~あ、ラーメンが食べたかったな~」
なんて小言を言われかねない。

そうならないために、ラーメンを……
それも山下が好みそうなあっさり系のラーメン屋を選んだ。俺はこってり系が好きだというのに。

こんなことならこってり系にしとけばよかった。
全てを譲った……その全て無駄にするような最後の裏切り。

麺をすすりながら、俺は思う。
「何で俺、あっさりラーメンを食べてるんだっけ?カレーの気分だったのに……」
その目の前で から揚げを頬張る山下の頭を叩きたくなった。

「さっさと食べ終わって、替え玉を貴様に食べさせようか?」
と、何となく替え玉の値段を確認しようとメニューを見直すと衝撃の言葉を発見した。

「定食のお味噌汁 +250円でミニラーメンに変更できます」

おいコラー 表出ろお前!
なんで呑気に味噌汁を飲んどるんやお前?
ミニラーメンにしろ、ミニラーメンに。
250円や250円、たとえ500円出したとしても、お前はミニラーメンを食べるべきだ!

普通は、ラーメンが食べたかったのなら、ミニラーメンに迷いなく変える。いや、そもそも 直でラーメンを注文し、唐揚げを単品で注文する。

喧嘩口調で話すわけにもいかず、わざと とぼけたように聞いた。

「山下知ってた? 定食の味噌汁って、ミニラーメンに変更できたらしいよ」
気付いていなかったんなら仕方ない。
早く気付かなかった俺も悪い。
それもそうだよな、ミニラーメンがあるって気付いていたら付けてたよな。そっか、そっか、気付かなかったんだな。

しかし、
「いや、俺は気付いていたよ。俺、視野が広いから」
確信犯。
山下は知っていた。知っていた上であえてミニラーメンに変更しなかった。

「おい、なんやと? 知ってて 頼まんかったのか?」
気付いていたのなら、変更しろ……
ミニラーメンに変更しろ。

俺の気持ちなんて知らずに山下は、
「250円、もったいないやろ?」
「ミニラーメンってだってそのラーメンの4分の1位の量しかないで?ラーメン1杯が700円でその4分の1は175円や」
「それに、ラーメンの値段のおおよそを占めているチャーシューが1枚もついてない。割に合わん。そんなんでミニラーメンなんて頼めるか!」
山下には、罪の自覚がないようだ。
ラーメン屋に入ったが、唐揚げが食べたかったから、唐揚げを食べた。自分のお金で食べているから好きなものを食べた。そんな風にしか思っていないはず。

「じゃあ、ラーメン食べたかった気分はどこにいったんだよ?」
と言う言葉が喉まで出かかったが、グッとこらえた。ここで言い争いをしたところで何も生まれない。今さらカレーを食べられるわけでもないから、逆に夜飯こそはカレーを食べてやろうと考えることで自分を落ち着かせた。

***
ラーメンを食べ終えると山下が、

「前野、ラーメン美味かった?」
今の俺には、喧嘩を売られているように聞こえる。

「美味しかったよ、俺はこってり系が好きだけどね」
俺は、山下が気付くように、「こってり」を強調して言った。

「へー ならよかったな!」
なら、よかった? いいわけないだろ、いいわけ。

元々 こちらはカレーを希望。カレーを希望していたのに、ラーメンになってラーメンといえばこってり系だったけど、食べたのはあっさり系だった。
満足はしたけど、大満足はしてないからな?
目の前で君が美味しそうにラーメンを食べていれば譲ってよかったななんて思えるが、君が食べていたのは、から揚げ定食だからな!

「ちなみに、から揚げ定食は、失敗だったぜ!俺は、塩味のから揚げが好きなんだよな~」
ラーメン屋でから揚げの種類求めんな!
メニューにあるだけで、ありがたいと思え!

ちなみに、定食屋「辛子大根」なら醤油味、塩味 どちらもメニューにある。

……結局 夜飯もカレーを阻止されることになるのだが、それはまた別の話である。

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