トイレの探偵さん

文字数 763文字

 女子高の女子トイレ。
 個室のドアを開けると、小人さんがいた。
 驚いて声も出せないのは、一般的な女子高生としては普通だと思う。

「大人のくせに、見えてんじゃねえよ!」

 しかも、童話に出てきそうなズングリムックリしたおっさん顔の小人にキレられる。
 普段は子供扱いが嫌なのだが、ここまで言われると「まだ子供だし!」と言い返したくもなる。
 だが、今はそれどころじゃない。

「あの……どちらさまで?」

「妖精国の探偵に決まってんだがよ」

 わたしの腰ぐらいの高さから、目つきの悪い探偵がにらんできた。
 
 勉強のやりすぎで幻覚でも見えているのだろうか?
 勉強しろ勉強しろと口うるさい母親に、言ってやりたいぐらいだ。


 
「そういうわけで、白雪姫がまた行方不明なわけだ」

 落ち着いた探偵が便座に腰掛けながら、わたしに説明した。

「それじゃあ、探偵さんは七人の小人的な?」

「おお、それそれ。七人兄弟の長男よ。白雪姫はうちのアパートの管理人の娘な」

 白雪姫って、そんな設定だったっけ?

「ほかの兄弟も、白雪姫さんを探してるんですか?」

「いや、探偵は俺だけだからな。あとはニートかヒキコモリか自宅警備員だ」

「無職率が高い……」

 妖精の国でも就職は厳しいようだ。
 夢がない。

「どうしてこんな所を探しに来たんです?」

「去年は韓国にプチ整形に行ってたから、今回もアジアだと思ったんだがな」

 だからといって、女子高のトイレにはいないだろ。
 探偵は腕を組んで、考え込みだした。

「とりあえず……がんばってください」

 ほかにかける言葉も見つからず、わたしは個室を出た。
 さすがにおっさん顔の探偵の前で、パンツを下げる勇気も性癖もない。

 隣の隣の個室のドアを開ける。

「え? なに? 見えんの? 大人のくせに?」

 童話に出てきそうな服装で、韓国メイクの女がこっちをにらんできた。
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