第９話：査察
文字数 3,327文字
「……………」
今日も今日とて、ラスティは執務室にて書類仕事をこなしている。
通常の業務もそうだが、他にも良識派の1人として、ミッドガル帝国の大臣として犯罪組織の撲滅、腐敗派の掃討、治安向上、革命軍への備え、など。これらをこなさなければならない。ハッキリ言って並の人間ならオーバーワークも良いところだが、常人以上の体力を持つラスティなら、多少の無理をすれば許容範囲だ。
「流石に、厳しいな」
数時間の書類の山との格闘も、漸くラストスパート。菓子を一つつまみ、不足する糖分を補給する。
（進捗は順調。腐敗派や犯罪組織が溜め込んでいた資金のお陰で大分事が進めやすい）
ラスティは、腐敗派や犯罪組織の撲滅の際に入手する大量の資金の一部を治安向上や経済政策、軍備増強や「慈善活動組織アーキバス」の資金源に流用。帝国の国力の礎にした他に、「計画」の資金源としても利用している。
（順調とはいっても、果たして革命軍が蜂起してしまう段階までに間に合うかどうか…必要とはいえ、やはり規模が大き過ぎる。この際もう少し完成度は目を瞑って、ガワの完成だけでも優先させるのを検討してみるのもアリだろうな）
ズキリと、酷使していた頭が悲鳴を上げた。
（もう少しだが、まぁサインする訳でもない。休憩するとしよう）
そう思い、彼は菓子をもう一つつまみ…
「………ふむ」
菓子を摘もうと伸ばした左手が空を切り、書類から視線を移す。左手の先にあった筈の、皿に乗せられていた菓子が、皿ごと無くなっている。
そう思っていたら、サクサクと菓子を食べる音を拾う。続いて視線を少し上げると、ソファに座り、執務机に置いていた菓子の皿を勝手に取って食べているデュナメスがいた、。彼の認識ではついさっきまで居なかったのだが、自分が集中していた事もあって、コッソリ入ってきていた事に気付いてなかったのだろう。
「頂いているぜ、ボス」
「デュナメス、私の菓子を勝手に食べないでくれ」
「悪い、こっちも当分が不足していてね。甘いものが食べたい気分なんだ。それにボスのものは私のものだからな」
「次からは貴方の分も用意するとしよう」
「ありがとう、ボス」
ちょっとしたジャイアニズム理論を展開した彼女の名前は、「デュナメス」。
ダイモス細胞を植え付けられ、暴走して死ぬ運命だったところをラスティによって助けられた。
慈善活動組織アーキバスの戦闘員でもあり、大臣になったラスティの仕事を手伝っている。
時間を見ると、どうやら昼下がりらしい。菓子を多少摘みながらだったとはいえ、腹が空腹を訴える鳴るのも道理だろう。
「時間も時間だ、昼食を取ろうか。店も予約してある」
「あれ、もしかして帝都のお店で食べるの？」
「視察するついでに、庶民の味を楽しもうと思ってね。席もテーブルで予約してあるから、1人増えても問題ない」
「いいね」
そんな訳で、2人は宮殿から帝都の飲食店に姿を移していた。
デュナメスは兎も角、帝国大臣のラスティが素顔で出歩いていたら多少の騒ぎになることは確定している為、彼は軽く変装して、帝都市民の一人として紛れ込める様にしている。
ラスティは肉料理の皿の山を、デュナメスはスイーツの皿の山を築き上げている
なぜこんな事になっているのかというと、ラスティは日頃のストレスや頭の労働、鍛錬によるエネルギー不足と食欲過多が合わさり、大食漢となっていた。
「ご馳走様でした」
漸く腹が程よく満たされたのか、彼は軽く息を吐いてナイフとフォークを置く。デュナメスもケーキの一切れを切り分けながら、美味しそうに食べている所だ。
（代金は……）
積み上がっている皿の数と、二人が食べていた料理を思い出しつつ大雑把な代金を計算する。大雑把故に多少多めに用意するが、余った分はチップの代わりで良いだろう。
（……あれは？）
ふと、視界の端に1人の男が映る。それだけなら何のこともないが、彼には見覚えがあった。
（……………）
男の近くを見れば、3人の少女の姿。装いを見る限りでは帝国の僻地からやって来たらしい。そして、少女達を連れている男の詳細を思い出し始めた。
その内容を思い出したラスティの表情が、変わる。
「デュナメス、どうやら少し仕事が出来たようだ」
「オーライ、ボス」
ラスティの様子と言葉で、デュナメスも何かあったと確信。少女の可愛らしい表情から、暗殺者としての冷たい表情に一瞬で切り替わる。
「あの男を見張ってほしい。無いと思うが、勘付かれぬように。私は手早く会計を終わせる」
「了解」
残っていた最後の一切れを食べると、店の出口に向かう。
ラスティも素早く会計を済ませ、店から通りへ出る。すぐ側にデュナメスが付き、デュナメスの視線を追って男の姿を再確認。周囲からも怪しまれぬよう、2人は他愛の無い会話をしながら、適度な距離で尾行を開始。
（腐敗派と繋がっている犯罪組織のリーダーと、こんな所で出逢えるとは。僥倖だな）
「ボス、特務隊は呼ばなくて大丈夫なの？」
「いつしでかすか分からない。それに出動準備は既に発令済みだ」
デュナメスの問いに、ラスティは右手に握られていた小さな機械をチラリと見せる。
「後は、現場を押さえるだけだ」
その後、尾行を続ける事数十分。男と少女3人は帝都郊外の人気の無い店に入っていった。2人は店に入る事なく、しかし店の中の4人が覗ける位置にそれとなく移動。気配を消し、様子を見る。
数分後。店の奥から黒服の男が十数人、そして犯罪組織と繋がっている可能性があると報告されていた3人の男が姿を表し、黒服が3人の少女を取り押さえる。
瞬間、2人は動いた。最早尾行は不要、情けも無用。帝国の平穏の為に、3人の少女の安全の為に、殴り込むのみ。
「魔装兵装ゴーレムギア、ラスティ・ヴェスパー、セットアップ」
「ゴーレムギア、デュナメス、変身」
◆
今日は少女3人を捕らえ、さぁどう壊してやろうか。彼等がそう思っていた矢先だった。
パァン！！ という音が響く。
硬く閉ざされた扉がブチ破られる轟音が響き、直後、扉が壁に衝突する音が響く。全員が驚き、店の出入り口を見やる。
「対象を発見、殲滅開始だ」
「お前らに慈悲なんてくれてやるか」
瞬間、蹂躙が始まった。ラスティとデュナメスは瞬間的に敵との距離を詰め、接敵。デュナメスは魔力ブレードを展開して、少女達を捕らえている黒服達の両肩を深く切り刻み、戦闘不能に陥す。
ラスティは1人を蹴り飛ばして数人を巻き込み、その流れで1人の襟元を鷲掴み、投げ飛ばす。加減無しでぶん投げられた黒服は悲鳴を上げ、数人を巻き込みつつ壁に衝突した。
「ヒッ…！！」
咄嗟に首謀者達が逃げようとするが、そうはさせない。ラスティは魔力を属性変形させて、『雷槍穿ち』を発動する。発射された雷の槍は、首謀者達の太腿に命中して筋繊維を破壊。歩行不能とする。
その隙に背後から残っている黒服が凶器を持って襲い掛かろうとするが、更に背後を取ったデュナメスに背中を切られ、内臓まで到達した壮絶な傷によってショック死する。
制圧完了。救助対象の3人の安全を確実に確保、敵対対象の戦闘不能を確認。
「デュナメス、3人を頼む」
「おーけー」
デュナメスが呆然としている3人に歩み寄って行く。
「さて…」
ラスティは首謀者の3人の口をテーブルの布で塞ぎ、拘束。尚も這って逃げようとしている犯罪組織のリーダーの太腿、正確には傷を踏み付ける。
「ギャアアアアアアッ！！？」
「悪いな、逃がすつもりはないんだ」
蹴飛ばして仰向けに姿勢を強制的に変え、胸元を踏み付ける。
「さて、君には聞きたい事が色々とある。しかし今は場所が悪い。場所を移した後に行うとしよう」
「お前、お前何をやってるのか分かってるのか！？ 今すぐ僕らを解放しろ、そうすれば報復の内容も考えてやる！！さもなければお前に生き地獄が待ってるぞ！！」
「ああ、そうか。今は変装しているから気付いていないのか」
そう言ってラスティは変装を解き始める。隠されていた素顔を見たリーダーの顔色が、みるみるうちに青くなっていく。
「………な、なんで大臣がここに居るんだよ！！？」
「お前たちみたいなのがいるからだよ」
今日も今日とて、ラスティは執務室にて書類仕事をこなしている。
通常の業務もそうだが、他にも良識派の1人として、ミッドガル帝国の大臣として犯罪組織の撲滅、腐敗派の掃討、治安向上、革命軍への備え、など。これらをこなさなければならない。ハッキリ言って並の人間ならオーバーワークも良いところだが、常人以上の体力を持つラスティなら、多少の無理をすれば許容範囲だ。
「流石に、厳しいな」
数時間の書類の山との格闘も、漸くラストスパート。菓子を一つつまみ、不足する糖分を補給する。
（進捗は順調。腐敗派や犯罪組織が溜め込んでいた資金のお陰で大分事が進めやすい）
ラスティは、腐敗派や犯罪組織の撲滅の際に入手する大量の資金の一部を治安向上や経済政策、軍備増強や「慈善活動組織アーキバス」の資金源に流用。帝国の国力の礎にした他に、「計画」の資金源としても利用している。
（順調とはいっても、果たして革命軍が蜂起してしまう段階までに間に合うかどうか…必要とはいえ、やはり規模が大き過ぎる。この際もう少し完成度は目を瞑って、ガワの完成だけでも優先させるのを検討してみるのもアリだろうな）
ズキリと、酷使していた頭が悲鳴を上げた。
（もう少しだが、まぁサインする訳でもない。休憩するとしよう）
そう思い、彼は菓子をもう一つつまみ…
「………ふむ」
菓子を摘もうと伸ばした左手が空を切り、書類から視線を移す。左手の先にあった筈の、皿に乗せられていた菓子が、皿ごと無くなっている。
そう思っていたら、サクサクと菓子を食べる音を拾う。続いて視線を少し上げると、ソファに座り、執務机に置いていた菓子の皿を勝手に取って食べているデュナメスがいた、。彼の認識ではついさっきまで居なかったのだが、自分が集中していた事もあって、コッソリ入ってきていた事に気付いてなかったのだろう。
「頂いているぜ、ボス」
「デュナメス、私の菓子を勝手に食べないでくれ」
「悪い、こっちも当分が不足していてね。甘いものが食べたい気分なんだ。それにボスのものは私のものだからな」
「次からは貴方の分も用意するとしよう」
「ありがとう、ボス」
ちょっとしたジャイアニズム理論を展開した彼女の名前は、「デュナメス」。
ダイモス細胞を植え付けられ、暴走して死ぬ運命だったところをラスティによって助けられた。
慈善活動組織アーキバスの戦闘員でもあり、大臣になったラスティの仕事を手伝っている。
時間を見ると、どうやら昼下がりらしい。菓子を多少摘みながらだったとはいえ、腹が空腹を訴える鳴るのも道理だろう。
「時間も時間だ、昼食を取ろうか。店も予約してある」
「あれ、もしかして帝都のお店で食べるの？」
「視察するついでに、庶民の味を楽しもうと思ってね。席もテーブルで予約してあるから、1人増えても問題ない」
「いいね」
そんな訳で、2人は宮殿から帝都の飲食店に姿を移していた。
デュナメスは兎も角、帝国大臣のラスティが素顔で出歩いていたら多少の騒ぎになることは確定している為、彼は軽く変装して、帝都市民の一人として紛れ込める様にしている。
ラスティは肉料理の皿の山を、デュナメスはスイーツの皿の山を築き上げている
なぜこんな事になっているのかというと、ラスティは日頃のストレスや頭の労働、鍛錬によるエネルギー不足と食欲過多が合わさり、大食漢となっていた。
「ご馳走様でした」
漸く腹が程よく満たされたのか、彼は軽く息を吐いてナイフとフォークを置く。デュナメスもケーキの一切れを切り分けながら、美味しそうに食べている所だ。
（代金は……）
積み上がっている皿の数と、二人が食べていた料理を思い出しつつ大雑把な代金を計算する。大雑把故に多少多めに用意するが、余った分はチップの代わりで良いだろう。
（……あれは？）
ふと、視界の端に1人の男が映る。それだけなら何のこともないが、彼には見覚えがあった。
（……………）
男の近くを見れば、3人の少女の姿。装いを見る限りでは帝国の僻地からやって来たらしい。そして、少女達を連れている男の詳細を思い出し始めた。
その内容を思い出したラスティの表情が、変わる。
「デュナメス、どうやら少し仕事が出来たようだ」
「オーライ、ボス」
ラスティの様子と言葉で、デュナメスも何かあったと確信。少女の可愛らしい表情から、暗殺者としての冷たい表情に一瞬で切り替わる。
「あの男を見張ってほしい。無いと思うが、勘付かれぬように。私は手早く会計を終わせる」
「了解」
残っていた最後の一切れを食べると、店の出口に向かう。
ラスティも素早く会計を済ませ、店から通りへ出る。すぐ側にデュナメスが付き、デュナメスの視線を追って男の姿を再確認。周囲からも怪しまれぬよう、2人は他愛の無い会話をしながら、適度な距離で尾行を開始。
（腐敗派と繋がっている犯罪組織のリーダーと、こんな所で出逢えるとは。僥倖だな）
「ボス、特務隊は呼ばなくて大丈夫なの？」
「いつしでかすか分からない。それに出動準備は既に発令済みだ」
デュナメスの問いに、ラスティは右手に握られていた小さな機械をチラリと見せる。
「後は、現場を押さえるだけだ」
その後、尾行を続ける事数十分。男と少女3人は帝都郊外の人気の無い店に入っていった。2人は店に入る事なく、しかし店の中の4人が覗ける位置にそれとなく移動。気配を消し、様子を見る。
数分後。店の奥から黒服の男が十数人、そして犯罪組織と繋がっている可能性があると報告されていた3人の男が姿を表し、黒服が3人の少女を取り押さえる。
瞬間、2人は動いた。最早尾行は不要、情けも無用。帝国の平穏の為に、3人の少女の安全の為に、殴り込むのみ。
「魔装兵装ゴーレムギア、ラスティ・ヴェスパー、セットアップ」
「ゴーレムギア、デュナメス、変身」
◆
今日は少女3人を捕らえ、さぁどう壊してやろうか。彼等がそう思っていた矢先だった。
パァン！！ という音が響く。
硬く閉ざされた扉がブチ破られる轟音が響き、直後、扉が壁に衝突する音が響く。全員が驚き、店の出入り口を見やる。
「対象を発見、殲滅開始だ」
「お前らに慈悲なんてくれてやるか」
瞬間、蹂躙が始まった。ラスティとデュナメスは瞬間的に敵との距離を詰め、接敵。デュナメスは魔力ブレードを展開して、少女達を捕らえている黒服達の両肩を深く切り刻み、戦闘不能に陥す。
ラスティは1人を蹴り飛ばして数人を巻き込み、その流れで1人の襟元を鷲掴み、投げ飛ばす。加減無しでぶん投げられた黒服は悲鳴を上げ、数人を巻き込みつつ壁に衝突した。
「ヒッ…！！」
咄嗟に首謀者達が逃げようとするが、そうはさせない。ラスティは魔力を属性変形させて、『雷槍穿ち』を発動する。発射された雷の槍は、首謀者達の太腿に命中して筋繊維を破壊。歩行不能とする。
その隙に背後から残っている黒服が凶器を持って襲い掛かろうとするが、更に背後を取ったデュナメスに背中を切られ、内臓まで到達した壮絶な傷によってショック死する。
制圧完了。救助対象の3人の安全を確実に確保、敵対対象の戦闘不能を確認。
「デュナメス、3人を頼む」
「おーけー」
デュナメスが呆然としている3人に歩み寄って行く。
「さて…」
ラスティは首謀者の3人の口をテーブルの布で塞ぎ、拘束。尚も這って逃げようとしている犯罪組織のリーダーの太腿、正確には傷を踏み付ける。
「ギャアアアアアアッ！！？」
「悪いな、逃がすつもりはないんだ」
蹴飛ばして仰向けに姿勢を強制的に変え、胸元を踏み付ける。
「さて、君には聞きたい事が色々とある。しかし今は場所が悪い。場所を移した後に行うとしよう」
「お前、お前何をやってるのか分かってるのか！？ 今すぐ僕らを解放しろ、そうすれば報復の内容も考えてやる！！さもなければお前に生き地獄が待ってるぞ！！」
「ああ、そうか。今は変装しているから気付いていないのか」
そう言ってラスティは変装を解き始める。隠されていた素顔を見たリーダーの顔色が、みるみるうちに青くなっていく。
「………な、なんで大臣がここに居るんだよ！！？」
「お前たちみたいなのがいるからだよ」
