第5話

文字数 1,843文字

おまけ②【まだ早い】













 治療を受けていた海埜也は、こんな夢を見ていた。



 「あれ?」
 目を開けると、懐かしい風景が広がっていた。
 「おお凵畄迩!やっと起きたのか!」
 「ど、〵煉・・・」
 「珍しいな。こんな時間まで寝てるの。いつも一番早いからな」
 「ああ・・・」
 目の前にいる男に、海埜也は無意識に腕を伸ばしており、その男に触れる。
 「なんだ?どうした?何かついてるか?」
 「・・・あ、いや」
 「ほれ、干し芋」
 「ありがとう」
 「ちょっと待ってろ。今お茶淹れるから」
 「・・・他のみんなは?」
 「匍立は買い物、朷音と燕网は任務」
 「そうか」
 口の中に広がる芋の甘さを感じたあとのお茶は本当に美味しい。
 「今日おかしいぞ凵畄迩。何かあったのか?あ!!!も、もしかして・・・お、女の悩みとかか?!」
 「違う」
 「だよな。そうだと思ってた」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・あああああああ!なんだこのよく分かんねえ沈黙は!!!凵畄迩どうしたんだよ!!」
 「・・・・・・」
 「ったく。本当にお前って奴は。マジで大変なときとかは絶対ェ何も言わねえのな」
 「・・・・・・悪い」
 「別に謝ってほしいわけじゃねえよ。俺達の頭として、いつだって何かしらに追われて縛られてんだろうけどさ。俺達はお前の部下じゃねえ。仲間だろ?頭だけど対等だろ?困ってるなら言えばいい。もっと頼れよ、俺達のこと」
 「・・・・・・」
 「なんだよ」
 「・・・そうか。俺は頼っていないように思われていたんだな」
 「あ?」
 「・・・俺は、お前達のことを信頼してる。誰よりも」
 「・・・・・・」
 「だからこそ、適材適所で俺自身が戦いに行けるし、俺に何かあっても・・・」
 「・・・いや、嬉しいんだけどよ、照れるんだけどよ」
 「ん?」
 「お前に何かあっても、ってのはいらねえな」
 「いや、でも何が起こるか分からないし」
 「そうなんだけどよ。そういうことしてんだけどよ。そうじゃなくて」
 「?」
 「そういうことは考えねえの。いいな?」
 「・・・考えておいた方が、いざという時にいいと思う」
 「・・・お前ってさ、なんでこう、ここの空間ではちょっとなんか・・・惚けた感じ?天然な感じのキャラになるわけ?」
 「惚ける?天然?」
 「まあいい。俺が言いたいのは、生きてる時は生きることだけ考えてればいいってことだ」
 「・・・・・・哲学?」
 「違ぇよ。・・・確かに、死んだ後のこと考えるのも大切かもしれねぇけど、ずっと考えるなんておかしいぞってこと。なんで生きてるのに、毎日毎日死んだときのこと考えるんだ?いや、俺達がやらねきゃいけねえのは、生きてる間にどうするかだ」
 「生きてる間に、どうするか」
 「そうだ。それに、いっつも死んだときのこと考えてると、本当にぽっくり死んじまうかもしれねぇぞ?」
 「怖いな」
 「お前がな」
 「どうするかって言われてもな」
 「やり残したこととか、やりたいこととか無いのか?」
 「やり残したこと・・・やりたいこと・・・」
 「おう」
 「・・・やりたいことは無いけど、やり残したことはある気がする」
 「お、なんだ?」
 「・・・なんだっけ」
 「なんだそりゃ」
 「なんか、すごく大事なことだった気がするんだ。思い出せないけど」
 「・・・・・・」
 「何か約束したのかな・・・」
 「・・・・・・凵畄迩」
 「ん?」
 返事をしながら〵煉を見れば、窓から差し込む光が逆光になり、その顔が良く見えなかった。
 でも、なんとなく笑っていた気がする。
 「そのやり残したこと、ちゃんと全うしてから俺に会いに来い」
 「え?」
 次の瞬間、逆光が強さを増していき、海埜也はあまりの眩しさに目を閉じる。
 背中を、トン、と押された感覚があり、耳元で何か言われた。



 「う・・・・・」
 「!!!大丈夫か!?おい!!」
 「・・・・・・ここは」
 「い、意識戻ったぞ!!!イデアムさんに報告だ!!!」
 「・・・・・・」
 見知らぬ天井を仰ぎながら、動かない身体で抵抗することもなく、ゆっくり瞬きをして生きていることを認識した。
 それからバタバタと数人、それ以上の足音が聞こえてきて、騒がしい声と物音に、この世界にまだ留まっていたのだと安堵する。
 そして、顔をぐしゃぐしゃにして近づいてきた信を見て、ああ、と何かを思い出した。
 まだ信が小さかった頃、何気ない会話の中にあった、その約束。
 

 『泣き虫信を助けてやれよ』
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