ひとりモノのきもち
文字数 678文字
物心ついた頃からずっと一緒だった。わたしたちの存在はお互いがあってこそ意味を持つ、かけがえのないものだったはずなのに……。
物の弾みで喧嘩になって、あの人は荷物をまとめて出て行ってしまった。
がらんとした部屋は物寂しい。欠けたものを取り戻そうとするかのように、次々と新しい物が増えていく。けれど食器棚の中だけは変わらず、不自然に空いた物間が残されたまま。そこを埋めるのが彼であって欲しいという望みを、どうしても捨てきれない。
対でいることが当たり前で、離ればなれになるなんて考えたこともなかった。彼がいなくなってから、まるで体中が罅だらけになってしまったかのよう。なみなみと湛えられていた幸福な気持ちは、一滴も残さずからからに乾ききってしまった。あれから幾度この身を温められても、心は空しく冷えていくだけ。
代替品なんて求めてないわ。こぼれてしまった愛情を、どうかもう一度つぎ足して。
そんな物足りない日々に、不意に終わりが訪れた。開かれた扉から現れたのは、紛いもない彼の姿!
わたしたちに言葉はいらない。ふたりで一組、並んでいるだけであるべき形に戻れるの。
寄り添う二人の前で、寄り添うわたしたち。ようやく戻ってきた日常。この温もりを保てるように、しっかりと働いてみせるわ。
さあ、温かい飲み物を召し上がれ。身も心も、芯からほっこりさせてあげる。だからどうか、二人の想いがこの先永遠に冷めたりしませんように。あなたたち夫婦の物語が愛情で満たされていることを、心の底から祈り続けるから……。
もう二度とわたしたちペアマグカップを、片われだけにしないでね。
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