英雄ポロネーズ
文字数 1,478文字
目の前には、仙台PARCOがあり、仙台駅前は人がたくさん集まっていた。伊達政宗像の前には、カップルがイチャイチャしているのが見えている。
歌音もいつかあんな感じで圭とイチャイチャするのかと考えは頭にはない。
ただ頭の中には、世界の終わりが見え始めている事と音楽が失われた世界を想像していた。
音楽が失われたら、歌音の逃げ場がなくなる……。
人の波にのまれてしまった歌音は、逆らうことが出来ない。ただ流されるだけだと思っていた。
その時、誰かに手を掴まれ、人の波から脱出することに成功する。
歌音は、店主から譜面を受け取り、お金を支払った。
「アルメニアン・ダンス part1」……アルフレッド・リードが作曲した大作。
次の特別講演会で演奏する曲だ。歌音も少しは練習しないといけない、と思った。
歌音は、目の前のピアノの誘惑に負けてしまう。どうしても弾きたくなったのだ。鍵盤のタッチの確認とかしてみたいのだ。
そっと歌音は、鍵盤の上に手を近づけると、すぐに鍵盤を押さえた。たった一音で観客と審査員の心を掴む、ということを理解していた歌音は、ピアノの世界に入り込む。
そばで聞いていた圭も唖然としながら聞いているのが見える。
これが、歌音のピアノの実力だ。
なかなかやまない拍手と歓声。歌音は、驚きを隠せないようだ。
圭がものすごい笑顔で歌音に迫ってきているのが分かる。
これは、戦いの始まるほんの少し前の前座でしかすぎない二人のもどかしいラブストーリー。