第1話

文字数 2,637文字

カジミールと仲間たちはムスペルヘイルの兵をじわじわと減らし続ける命令を受けていたが、
カジミールは、そんな地味なやり方にうんざりしていた。
前方にそびえ立つ巨大な影を見つめながら、カジミールは笑みを浮かべて前進する。

「ここまで来ても良かったんか?」
仲間の一人が不安そうに呟く。
「ムスペルヘイルの兵をじわじわ減らすのが命令では?」
もう一人が痺れを切らして言った。

カジミールは振り返ることなく答える。
「うるせぇ、帰りたいなら帰りな。ほかの腰抜けどもみたいにな。」

「なんだそれ、ほどほどにしてくれよ!」

「そうだ!いままで、何回死にかけたと思うんだ。」
仲間たちが口々に言う。

カジミールはさらに笑みを浮かべ、
「その方が楽しいじゃねーかよ。」
と平然と答えた。

「楽しくないわ!てか大体原因おまえだけど!」仲間たちは不満をぶつけるが、

その時、彼らの前に巨大な影がさらに近づいてくる。

そこには、スルトが立ちはだかっていた。彼の全身は灼熱の炎に包まれ、その巨体はまるで山のように揺るがない。

カジミールは、咄嗟に
「強化魔法かけろ。」と小声で呟いた。

「時間かかります。」
と仲間は言う。

(時間を稼ぐか……)

はやる欲望を押さえ込み、
カジミールは、探るように
冷静に状況を分析する。

「熱が生命の源だってのは同意するよなぁ?」
カジミールがわざとらしく語りかける。

スルトはその言葉に嘲笑を浮かべ、
「貴様如きに生命を語る資格はない。」
と答えた。

その言葉はまるで神の如き自信に満ちている。

カジミールはその挑発に口元を緩めて笑う。
勿論笑っているのは彼だけである。
緊張が空気をピンと張り詰めさせている。

その緊張を破ったのは意外にも
「強化魔法、かけ終わりました!」の声だった。

その瞬間、先手を打ったのはカジミール。あたり一体を炎で包み込む。

「あちちっ!……あれ?熱くない?むしろ、気持ちが良い…」
仲間が意外そうな顔を見せる。

「聖炎つったらテメーらにも理解っか?」
カジミールはさらに続ける。
「敵を燃やしながら味方を癒す最上級能力……!」

仲間たちは驚きと感激の声をあげる。

スルトはその様子を見て一瞬驚いているようではあった。
しかし、冷酷に宣言する。
「少々小賢しいスキルを使ったところで結果は変わらぬ。俺に挑んだことを後悔しろ。」
それは、スルトの処刑宣告である。

「は?テメーが死ぬ番だぞ?」
カジミールは挑戦的に返し、スルトの巨大な姿を見据えていた。

スルトの怒りが爆発し、彼の顔が炎に包まれるように赤くなる。
「己の浅はかさを嘆き、死ぬがいい!!!!」

「やれるもんならやってみろよデカブツ!」
カジミールは鋭く叫び返す。

スルトが剣を振り上げる。
「レーヴァテイン!焼き滅ぼせ!それが、世界の選択だ!!!」
彼の叫びとともに、巨大な剣が振り下ろされた。

カジミールはその言葉を嘲笑うように、
「ごちゃごちゃうるせぇなあ!
メテオ・ラヴァ・ガン!オラオラオラア!!」

と、無数の炎弾を放ち反撃する。
拳が剣に当たるたび、響くような轟音が
辺り一体にこだまする。
カジミールはかろうじてレーヴァテインを跳ね除けたものの
その炎はあたり一帯を焼き尽くし、
全てを飲み込んだ。

スルトは衝撃に揺らぐが、すぐに態勢を立て直し再び攻勢に出る。
「小人が巨人の力に勝てるものか!ここで死に、屍となれ!!」

カジミールは対照的に笑みを浮かべ応じる。
「そうだなぁ、ハッハッ。力じゃかなわねぇよ。でもな、力だけじゃねぇ」

スルトの前にさらに近づく。
吹き出す溶岩に乗り、カジミールはスルトの目の前へと移動した。

「巨人族と戦う時の最大のネックは体格差だ。
だから、人間は基本巨人には勝てない。だがな、オレはちげぇ」

カジミールの声に応じるように、足元の溶岩がさらに激しく沸き立つ。彼は両手を前に突き出し、集中した表情を浮かべる。すると、沸き上がる溶岩が勢いよく地面を裂いて動き始める。

「だからな……オレは頭を使う。」
カジミールが言葉を続けると同時に、溶岩が彼の横に集まり始める。それはまるで生きているかのように形を変え、ゆっくりと人の形を成していく。

瞬く間に、カジミールの隣には、スルトと同じくらいの巨体を持つ溶岩の巨人が立ち上がる。その姿は荒々しくも力強く、赤熱した溶岩が全身を覆い、まるで生き物のように呼吸しているかのようだ。巨人の目には、カジミールの意志が宿っているかのような輝きが見え隠れしている。

「どうだ、こいつを見ろよ、スルト。」
カジミールは不敵な笑みを浮かべ、手を振るような仕草を見せる。すると、溶岩の巨人も同じ動きをするかのように、その巨大な腕をゆっくりと持ち上げた。

スルトは訝しげに、溶岩の巨人を見る。
「面白い」

スルトがそう言った次の瞬間――カジミールは突然手を握りしめ、拳を固める。
すぐに、溶岩の巨人が凄まじいスピードで拳を振り下ろし、スルトの右頬を激しく殴りつけた。

「戦場で油断してんじゃねぇよバァカ!!!」

さらにもう一発。
大地が震え、灼熱の炎が周囲を覆い尽くす。スルトは咄嗟に防御を試みるが、その巨体が揺れ動き、圧倒的な力に押しつぶされそうになる。

「必殺……マントル・マグナム・ショット!!」

カジミールの指示に応じて、溶岩の巨人の拳が猛烈な勢いでスルトに向けて突き出される。その拳はまるで火山の噴火のように灼熱の溶岩をまといながら、スルトの顔面に放たれる。

「くぼああああああ!!!」
スルトはその一撃に苦しげに叫び声を上げる。だが、まだ立ち続けている。巨人の攻撃に一瞬たじろぐも、再び剣を構え直し、対抗の構えを見せる。

「楽しいな!火山野郎!!!まだまだ行くぜ!」

仲間の一人が駆け寄ってくる。
「バフをかけます!
アル・デモンコーン!!!」

「まだ死んでなかったのかテメェ!!!」

仲間は自信満々に
「腐っても最上級魔法使いです!」
と答えた。

「助かるぜ!!!」
カジミールは再び攻撃に転じる。
「マントル・ショット!!」

スルトはその一撃に耐えきれず、苦しげに叫ぶ。「ぐああああああああああ!!!」
しかし、なおも倒れずに立ちはだかる。
「なかなかやるな!小さき者よ!!」

「まだ、んなこと言ってんのか?目の前のピンチをみろよ!
今は、テメーが小人だぜ??」
カジミールの挑発は続く。

挑発に応える事なくスルトは、再び剣を構えた。
「レーヴァテイン!焼き滅ぼせ!」
スルトの咆哮に呼応し、レーヴァテインはさらに強く燃える。

だが、その前にカジミールは次の戦略を見据えているのだった。

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